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第169回 新井康通さん

第169回 新井康通さん

住  吉
住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のゲストは、医師で慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター専任講師の新井康通先生です。
新  井
よろしくお願いいたします。
住  吉
今日お話を伺うキーワードは「健康長寿への道」。長寿の秘密がわかれば、私たちの生活習慣や健康意識の参考にもなりますし、今月の大きなテーマ「特定保健指導」にも繋がるということで伺っていきます。
新井先生の研究テーマがまさに「百寿者の身体と健康」ということですが、“百”の“寿”ということは、100歳ぐらいのご長寿の方ということでしょうか?
新  井
おっしゃる通りです。100歳以上の高齢者の方を、私たちは尊敬の念をこめて「百寿者」と呼んでいます。この百寿者の方々は、だいたい90歳半ば、中には100歳まで、日常生活が自立してしっかり生活されている方がいらっしゃるということで、なぜその百寿者の方がいつまでも元気でいらっしゃるのか、その秘訣を明らかにすることによって、一般の高齢者の方も元気で長生きしていただけるような研究に繋げたいと考えています。
住  吉
「人生100年時代」という言葉をよく耳にするようになりましたが、研究の中でもそういう時代が本当にやってくるとお感じになりますか?
新  井
現在、日本人の女性の平均寿命が87歳、男性が81歳ですけれども、国連では、2050年ぐらいまでに日本、韓国、香港の女性の平均寿命が90歳に到達するだろうと予測されております。この平均寿命がいつ頃100歳に到達するのか、という予測はなかなか難しいんですけれども、もしかすると次の世紀ぐらいにそういう時代が来るのかもしれません。
住  吉
長く生きられても、楽しくおしゃべりしたり、美味しいものを食べたり、「健康で長寿」でいたいですよね。
ということで、まずは「健康長寿への道」、3つのポイントを伺いたいと思います。

健康長寿への道 その1「糖尿病に要注意!」
新  井
私たちは、2000年から2002年にかけて、東京都に住んでいる300人の百寿者の方に健康調査をさせていただきました。最初私たちは「100歳まで長生きされる方々は、病気が全然ないんだろうな」と予測をしていたんですが、調べてみると、97%の方は何らかの病気があって。百寿者の方は8~9割が女性なんですが、骨粗しょう症や骨折の問題、高血圧の問題などがあったんです。ところが、糖尿病になっている方は非常に少ない、ということがわかりました。百寿者の方全体で、糖尿病の方はだいたい6%なんですが、一般の高齢者の方は、今だいたい15~20%ぐらいと言われているんです。
住  吉
つまり、糖尿病になってしまうと百寿者に到達できなくなってしまう、ということでしょうか?
新  井
そういうことも一つあると思いますね。そして糖尿病というと、肥満と関係があるんですが、百寿者の方は痩せていらっしゃる方が多いんです。ただもっと重要なのは、百寿者の方が若かった頃、例えば40代や50代の頃に肥満だったかどうか、ということなんですが、実は百寿者の方は中高年の頃から肥満の人が少なかった、ということがわかってきています。
住  吉
ではまずは、その肥満や食べ過ぎなどを基本的に気をつけていくことが大事なんですね。
新  井
はい。肥満や糖尿病というのは、動脈硬化、血管の病気ですが、これを引き起こすことによって健康長寿を阻害してしまうので、若い頃から、血管を丈夫にするために糖尿病、肥満を避けていただくことが非常に重要になってきます。

健康長寿への道 その2「フレイルに要注意!」
新  井
皆さんあまり馴染みがない言葉だと思います。「フレイル」というのは、年をとるにつれて心身が衰えて、健康な状態から介護が必要な「要介護」になる中間の段階を言います。だいたい70代後半や80歳ぐらいになるとこのフレイルが出てくるんですが、フレイルになると、5つの兆候が出てくると言われているんです。1つ目は、筋力が弱くなる。握力や足の力が弱くなる。2つ目は、歩くのが遅くなってくる。例えば、青信号の間に渡れなくなる、というようなイメージです。3つ目は、特に何もやっていないのに疲れやすい。それから、それと関係するんですが、出かけるのが億劫になって、活動量が減ってしまう。最後は、自然と痩せてきてしまう。だいたい目安だと6ヶ月で体重の5%以上痩せる。こういうような5つの兆候が出てくるんです。
私たちは、先ほどの百寿者の方々が、100歳を過ぎてからさらにどれぐらい長生きされるかという追跡調査を行ったんですよ。その結果、100歳以降の寿命に関係していたのはこのフレイルの兆候で、フレイルが少ないほど長生きだということがわかったんです。
住  吉
でも、筋力が落ちたり、歩くのが遅くなるというのは、防ごうと思って防ぐのはなかなか難しそうな気も…。
新  井
ですから、人生後半になってきますと、栄養をしっかり取っていただいて、なるべく痩せないようにしていただく。それから運動習慣ですね。散歩でもいいので、体を動かすことを続けていただくというのが、健康長寿の秘訣です。

健康長寿への道 その3「認知症予防がカギ!」
新  井
認知症は、高齢化社会で非常に問題になってきていますが、例えば物忘れが出てきてしまって、同じ話を繰り返すようになったり、いつも同じ物ばかり買ってきてしまったり、というような症状が出ますけれども、先ほどの百寿者の追跡調査で、フレイルともう一つ、100歳以降の寿命に関係していたのが、この認知機能です。物忘れの少ない方、それから判断力がしっかりしている方、こういう方が100歳以降も長生きだということがわかってきました。