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第213回 辻哲夫さん

第213回 辻哲夫さん

住  吉
住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のゲストは、東京大学 高齢社会総合研究機構・客員研究員の辻哲夫さんです。
  辻  
よろしくお願いします。
住  吉
今日のテーマは、「2025年問題と地域包括ケアシステム」です。
辻さんは、元厚生労働省事務次官でいらして、医療や高齢者福祉政策に長年力を尽くしてこられました。中でも最重要課題として取り組んできたのが、「地域包括ケアシステム」。
まず、この「地域包括ケアシステム」とはどのようなものでしょうか?
  辻  
今、日本は世界で一番の高齢先進国なんです。高齢者がどんどん増えていて、さらに高齢化が進みます。しかもこれからは、高齢者の世帯は一人暮らしや夫婦だけの世帯が中心になっていきます。
今は、弱ったら施設に移るという方が多いんですが、「本当は自分の家に住み続けたい」というのが多くの方の本心なんです。
そういう中で、今のままではこれからものすごく高齢化が進むので、国としても乗り切っていけないということで、住み慣れた地域で、どなたもできる限り元気で、弱っても安心してその地域に住み続けられるような様々な仕組みを、地域の中に作っていく必要があります。これが「地域包括ケアシステム」と言われるものです。
住  吉
地域包括ケアシステムを考える上で、重要なキーワードが「2025年」だそうですが、これはどうしてなのでしょうか?
  辻  
国際的には65歳以上が高齢者と言われていまして、その人口の占める割合がどんどん増えていくことを高齢化と言います。日本は28%台ぐらいで、世界で一番なのですが、これが40%ぐらいまで増えるんです。弱ってくるのは平均的には75歳以降なので、75歳以降が大きな課題なのですが、団塊の世代が75歳を超えるのが2025年なんです。従って、この時期に向けてシステムを見直していく必要があります。それがこの地域包括ケアシステムなんです。
住  吉
2025年ということは4年後なので、もう目の前という感じがしますが、どんな問題・課題に直面すると見られているのでしょうか?
  辻  
2025年に団塊の世代が75歳を超えるということは、いよいよそれから団塊の世代が、元気な人もたくさんいますが、平均的には弱り始めます。そういう風に、システムを2025年以降に向けて変えるということであって、本当にそのシステムが活きて、地域で機能していくには、2025年以降、大きく言うと2040年に向けて、本格的に機能させていく。2025年に全て完成するのではなく、2025年にはそういう方向に全体として切り替わっているという形で今進めています。
どういう風に進めているかと言うと、一つは、弱る前にまず困り事から始まるわけです。例えば、見守りをしないと心配だ、買い物やゴミ捨ては大丈夫か、など。お手伝いが必要になってくるわけです。そういうことを生活支援と言いますが、そういう状態が起こるというのは、身体や心が弱ってきてからであって、弱らないように予防することを介護予防と言うんです。 ですから、生活支援システムや介護予防システムを、地域の中にどのように作っていくのか。これは、どちらかというと我々一人ひとりが気が付いて助け合うということが必要で、自助・互助と言われますが、こういう方向をしっかり出していく。
一方で、なるべく弱らないように頑張るんだけど、最後は弱るというのが人の常なんです。弱っても、きちんと介護サービスも看護サービスもあって、医療も、これから住まいに住み続けようという方向をシステム化しようとしているわけですから、在宅医療が必要だと。それから、福祉的な困り事もあって、福祉サービスも必要。共助・公助と言いますが、公の仕組みも作っていかなければいけない。こういうことを、自分たちの身近な日常生活圏、だいたい中学校区単位ぐらいの地域で、そういう全体を作り上げていかなければいけない。これが地域包括ケアシステムの具体的な内容です。
住  吉
それを今から取り組んでいかないと、2025年には困る状況が起きてしまいかねないということなんですね。
  辻  
はい。2014年の医療介護総合確保推進法という法律ができまして、2015年から法律的にもそういう方向で進める、ということで今進んでいます。
住  吉
20~40代のリスナーの方々は、「自分とは関係ない」と思っているかもしれませんが、社会の誰もが関係のあることなのでしょうか?
  辻  
高齢化が進むということの意味は、若くして亡くなる人がものすごく減ったんです。医学技術が進歩しまして、社会保障制度も整備されまして。ですから、誰もが長生きするんです。これから2040年に向けて、生まれた方の3分の2近くが、85歳以上まで生きます。そして100歳の方がたくさん出てきます。そういう長生き社会になると、若い人も、おじいさん・おばあさんや親の介護で、誰もがこういうことを身近な問題に感じるんです。ですから若い人も、肉親を通して身近に感じる時代がやってきます。
それから、介護サービスや保健医療サービスは、若い人も健康保険に入っていますよね。保険料でそういうサービスを行っていきますので、もうみんなそのシステムに参加しているわけです。そういう意味で、20~40代にとっても身近な問題だということをご理解いただきたいと思います。
住  吉
地域包括ケアシステムについて、具体的な事例を挙げてお話しいただけますか?
  辻  
はい。これから高齢化がさらに進みますが、大都市圏の高齢化というのは非常に大きな課題になります。日本の経済発展の過程で、地方から多くの人が大都市に移り住んでいるので、その方々がこれから高齢化するんです。
それで、大都市圏といえば、多くの方がベッドタウンに住んでいます。東京大学には柏キャンパスがありまして、千葉県柏市は典型的なベッドタウンです。いわば、これからの高齢化の典型地域です。それで、東京大学のキャンパスがあるので、東京大学と柏市とUR都市機構が組んだ、豊四季台団地という団地が柏市にあるのですが、ここはすでに高齢化率40%を超えています。
そういう高齢化の進んだベッドタウンの地域をモデルにしまして、困り事を解決する「生活支援」、弱りにくいシステムを作る「介護予防」、それから24時間対応で在宅医療や看護、介護のシステムがやってくる、という地域包括ケアシステムの一つのお手本を作る、実現する、という作業にこの10年間、三者で連携して取り組んでまいりました。