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第213回 辻哲夫さん

第213回 辻哲夫さん

住  吉
これからそのシステムを、それぞれの地域の方々が自分たちの手で作り上げていかなければならないとなると、そういう例がまずあって、それをお手本に自分たちなりに工夫しながら、人材ややり方を作っていくことがマストになってきますね。
さらに、人生100年時代の新たなテーマが「フレイル予防」と発信されていますが、この「フレイル」と「フレイル予防」についてもお話しいただけますか?
  辻  
75歳以降の人口が増えるということが「2025年問題」と言われていますが、平均的にはだいたい85歳ぐらいに、介護サービスのお世話になるような「要介護状態」になるのが今の日本の姿です。元気な時から要介護になるまでの中間的な期間、状況を「フレイル」と言います。日本語では「虚弱」と訳されています。「虚弱」というと要介護の人を想像しますが、要介護になる手前のレベルダウンしていく状態を「フレイル」と言うんです。
そのフレイルを予防するということは、もっと早い段階で弱るのを予防するということなんです。もっと戻りやすい状態の時に。 では、どうしたら弱りにくいかというと、一つは、栄養。年を取ると筋肉が減りますので、タンパク質を中心に、栄養をしっかりとる。そのためには、年を取ると口の機能が弱ってくるので、これを大切にする。
次は、運動。これも、過激な運動はしなくていいんです。日常で、身体をよく動かすということです。
そして三つ目は、社会参加。社会との関わりを持つこと。これが重要なんです。ボランティアをするとか、そういう社会参加もありますが、人と関わる、生活の広がりを持つ、ということですね。 この三つの事がフレイルを予防する、ということがわかりました。一つだけでは不十分なんです。
このフレイルについて研究している、私の同僚の飯島先生という東大の先生は、この三つを三位一体でやらなくてはいけないという表現をしています。こういう事を進める、フレイル予防をすることが重要なんです。弱ってしまってからでは、戻るのは難しいんです。
特に重要なのが、社会性。人と人との関わりを持つ、生活の広がりを持つということです。例えば、高齢者の場合、毎日出かける人は、週に一回しか出かけない人に比べて、歩行障害のリスクは4分の1、認知症になるリスクも3.5分の1なんですよ。いかに閉じこもらないことが大切かということです。こういうことをこれからしっかりやっていく必要があります。そういう方向で行かないと、75歳以上の人口がものすごく増える社会は成り立ちません。従って、フレイル予防はものすごく大切なんです。できたら、毎日でなくても、65歳以降も地域で働くことです。
住  吉
地域包括ケアシステムのお世話になる前に、まずは自分がその世話をする方として活躍する、という意識を持って各地域で構築できると、有機的なシステムになりますね。
さて、番組サイトでは、リスナーの皆さんに健康にまつわるアンケートを行っています。今回は「かかりつけ医はいますか?」と質問しました。回答は「はい」が59%、「いいえ」が41%という結果です。辻さんはこの結果をどう捉えますか?
  辻  
「はい」が60%近いというのはとても良い傾向ですね。身近なところで、できたら家族を含めて、ずっと関わって様子を見てくださるお医者さんが大事なんです。病院の外来に行って、一から聞いて、次に行ったらまた違う先生がいる、ということではなく、同じ先生がずっと診察してくれて、何でも相談できる。できれば、弱ってきたら訪問診療もやってくれる。これが一番良いかかりつけ医です。そういうかかりつけ医が増えることが、今の地域包括ケアシステムが良い方向に進む大きなカギなんです。ですから、そういうかかりつけ医が増えることを願っていますし、多くの方がかかりつけ医を持っていらっしゃると理解していることはとても良いことです。
住  吉
ちなみに辻さんご自身は、健康のために心がけていることはありますか?
  辻  
ワンちゃんがいるのでワンちゃんの散歩ですね。マスクをして、人と接触しないで歩けますので。
それからもう一つは、ラジオ体操。これは、小さい時からやってきた『ラジオ体操 第1』を毎日やるように心がけています。
前者はワンちゃんとのコミュニケーションです。ラジオ体操は夫婦でどちらかが「今日もやらなくちゃ!」と。これもコミュニケーションです。あえて言うと、この二つですね。
住  吉
素敵ですね。興味のある方は、辻さんのご著書『地域で取り組む 高齢者のフレイル予防』をぜひチェックしてみてください。辻哲夫さん、ありがとうございました!
ここで、働くあなたの健康をサポートする協会けんぽからのお知らせです。今月、協会けんぽに加入している皆さんのお勤め先に生活習慣病予防健診のご案内をお送りします。来年3月までの期間内のうち、お一人様一回に限り、協会けんぽが健診費用の一部を補助します。年に一度は健康チェック。まずは、健診機関を確認して、受診の予約をお願いします。詳しくは「協会けんぽ」で検索してください。
5月6日(木)のゲストは、鳥取大学医学部 プロジェクト研究員の孫大輔さんです。次回もどうぞお楽しみに!