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第223回 春日武彦さん

第223回 春日武彦さん

住  吉
住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のゲストは、精神科の専門医で作家の春日武彦先生です。長年、うつ病など、精神疾患の治療・研究にあたってこられました。どうぞよろしくお願いします。
春  日
よろしくお願いします。
住  吉
春日先生は『あなたの隣の精神疾患』というご著書を発表されたばかりです。こちらは、「うつ病」「パーソナリティ障害」など項目別に精神疾患についてわかりやすくまとめられています。精神疾患に関する入門書のような一冊ですが、今日は、「コロナ禍の気持ちの落ち込み、うつ」に的を絞ってお話を伺っていきます。
先日、「日本国内のうつ病やうつ状態の人の割合が、新型コロナウイルスの感染拡大後、2倍以上に増加したことが経済協力開発機構(OECD)の調査でわかった」というニュースが報じられました。
やはりコロナ禍で気持ちが落ち込む人が増えているようなのですが、春日先生はどう分析されていますか?
春  日
現実問題として、失業や倒産、あるいは収入が減ったり、狭い家の中で家族同士がストレスになったり…そういうことは当然あるんですが、それとは別に、もう少し広い目で見ると、1つは「先が見えない」ということですよね。人間、ゴールが定まっていれば何とか踏ん張れますが、ゴールが見えないで「頑張りなさい」と言われても困ってしまって、どこかで心が折れてしまいます。
もう1つが「頑張ろうにも頑張れない」。「気をつけろ」「自粛しろ」という話ばかりで、努力でどうにかなるのであればまだいいんですが、そういうものが全然見えてこないので、気が抜けてしまうというか。 それから3つ目が「世間と一体感を持てない」。色々な意見の人がいますよね。「ただの風邪だ」という人もいたり、「どうでもいいから酒を飲みに行くぜ」という人もいたり…全然みんなの歩調が合わないし、自分は損をしているという気もしてきたり。みんなと一緒になって「頑張ろう!」という感じにはなってこない。
こういうことが重なると、無力感に繋がってきて、それが気持ちの落ち込みなど、そういう形になりがちなんだと思います。
住  吉
無力感…本当にそうですね。
今日は、リスナーの方から質問やメッセージがたくさん届いていますので、そちらにお答えいただきながら、お話を伺っていきます。

「たまにぼーっとしている時、“自分が今いなくなったらどうなるのか”“自分なんて消えてしまえ”など、ネガティブなことを考えてみたりなど、マイナスなことばかり。誰か一緒にいる時は考えないことなんですけれども、少しでも考えたり思ってしまうことは、うつの前兆なのでしょうか?」
住  吉
いかがでしょうか?
春  日
人間は、基本的に心がうつっぽくできているんだと思うんですよね、デフォルトとして。ただ、普段は仕事や生活などで勢いがついているので、うつという部分があまり見えてこないんですが、何かでペースが乱れたり、スローダウンしたりすると、その元々のうつっぽい部分があぶり出しのように出てくる…というところはあるような気がします。
「仕事が変わってうつっぽくなった」という方もいらっしゃいますが、仕事が変わることで、今までの勢いからギアチェンジしますよね、ちょっと立ち止まる。そういう時に、うつがジワジワと出てきやすい、というところはありますね。ですから、定年退職など、仕事を辞めてペースダウンした時にちょっと気持ちが落ち込む、ということは非常によくあります。我々は、ある程度「忙しい」などと言いながら、前に前にと突っ走っている方が少し楽、という風なことがありますよね。
住  吉
なぜ人間は、うつっぽい傾向にできているのでしょうかね…。
春  日
たぶんその方が安全だと思うんですよね。軽いうつだったら、用心深くなるわけじゃないですか。
住  吉
そうか! 生き物として。
春  日
そうです。だから精神科医から言うと、一番やばいのは「ハイな状態」。「俺はいけてるぜ」などと言って、金を使いまくったり、やたら怒りっぽくなったり、セクハラ・パワハラ寸前みたいなことを平気でやるような、調子が上がっている人というのは一番危ないですね。
住  吉
なるほど。人間はデフォルトでうつの前兆のようにできているんだ、と思うと、少し気分が違いますね。

「4月の人事異動で配属が変わり、仕事内容が全然変わりました。人間関係はいいんですが、仕事内容が全く合いません。先日、仕事からの帰り道に“なぜこんな仕事をやらなきゃいけないんだろう”と思い、泣きそうになりました。また、“上手くいかない”“自分の力不足なのか”と落ち込むこともあります。この状況がうつかはわかりませんが、もし対処方法があれば知りたいです」
春  日
これも、やはり環境が変わるということでは、うつっぽい気分が出やすいと思います。この内容で一番心配なのが、「自分の力不足かな」と自分を責めている部分がありますよね。ここは、いわゆるうつ病と近い部分があるので、正直心配です。人間は、どちらかと言うと人のせいにします。「俺が悪い」ではなく「あいつが悪い」とか、「課長がばんばん仕事を回してくるからだ」とか、「自分は悪くない」というのが正直なところだと思うんですが、「自分が悪い」と考えてしまうのは、不自然というほどでもないのかもしれませんが、心配ではありますね。
住  吉
対処法は何かありますか?
春  日
まずは、「自分で抱え込まない」ということです。思い過ごしという部分もあったりしますので、こういう風にしんどい、つらい、ということを友達でも家族でも、きちんと語ってみる。語ることで、「こんなことだったのか」と思えるところもあるし、「やっぱりまずい」と思うようなところもあります。自分の頭の中でぐるぐる考えているというのは、一番不健全な状態なので、少し風通しを良くするというところから始めましょう。