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第223回 春日武彦さん

第223回 春日武彦さん

住  吉
誰でもいいんですよね。家族でも、信頼できるお友達でも同僚でも、とにかく話せればいいんですね。
春  日
そうですね。喋るということは、心の中のモヤモヤに言葉を与えるということなので、曖昧なものが具体的になってきます。そこでやっと考えをまとめられるんですよね。

「姉が新型コロナになってから、うつっぽい症状が出てきました。同僚や友達との会食や外出を制限されてから、気持ちの浮き沈みも激しくなったように思います。たまに話していたことが前回と違ったり、会話の途中、なぜか無意味にキレたりしてしまいます。さらに、“自分は長生きしないから先のことは考えたくない”“今が平和ならいいか”とネガティブな発言をしたり。姉の娘たちは、“うつか統合失調症なのでは?”と言ってきますが、心療内科などを受診した方がいい目安はありますか?」
春  日
この場合は、「会食や外出を制限されてから」という風に、原因がはっきりしていますよね。そうすると、この原因が改善される、つまり、好きに人に会ったり、会食できるようになった時に、お姉さんが不安定な状態から抜け出せるかどうか、その辺りなんですよね。抜け出せるとしたら、これは単に反応性のもので、確かに今の状態は不安定かもしれないですが、これに対する治療というよりは、根本を何とかするという話です。ただ、不安定だったら、姑息的に安定剤を使うなどということはあり得るかもしれません。
ただし、いわゆるうつ病みたいな場合なら、会食や外出がまたOKになったとしても、元に戻らないと思います。
住  吉
元に戻らなければ、受診をした方がいいと。
春  日
そうです。
住  吉
それがどのくらい先になるかがわからないと考えた時に、今、自分は受診した方がいいのか、しなくても大丈夫なのか、判断できる目安はありますか?
春  日
確かにそこは微妙なんですよね。微妙というのは、人によって、例えば精神科でも心療内科でも、割と気軽に受診できる人と、受診したら負けと思う人までいらっしゃいますので…。ですから、受診することは恥ずかしいことでもやばいことでもないので、単なる道具として受診することも有りなんだと、気軽に考えた方がいいと思います。
住  吉
迷ったら一度行ってみる、というのも手ではないかということですね。
春  日
そう思います。
住  吉
今日はリスナーの皆さんに「私ってうつかも…と思ったことはありますか?」と伺っていますが、うつ病のサインというものはあるのでしょうか?
春  日
いくつかありまして、1つは、うつ病だと大概「不眠」が来ます。不眠と言っても、寝つけない、眠りが浅い、全く眠れないなど、色々な種類があるんですが、うつ病で特徴的なのは、とりあえず寝つくことはできると。それもアルコールを飲んだりして、かなり無理して寝つく。それで、夜中や明け方のまだ暗いうちになぜか目が覚めてしまうと。これは、寝足りているというわけでも、トイレに行くというわけでもなく、勝手に暗いうちに目が覚めてしまって、また眠れない。眠れなかったらラジオでも聴けばいいですが、そんな気にもなれなくて、ぐちぐちと取り越し苦労、不安などで悶々と苦しむ…ということが多いです。これを「早朝覚醒」と言います。その延長で、うつの人はだいたい朝が最悪です。夕方や夜になると、多少持ち直すという人が割と多いです。
住  吉
夜、暗くなってくると気分が落ち込んだり、寝つけないという人もいますが、それよりも「早朝覚醒」で朝が最悪ということが1つのサインなのですね。
春  日
そうです。あとは、気分が落ち込んだり、絶望感や焦燥感、取り越し苦労など色々とありますし、意欲の低下、億劫感など…。ものすごくうつの人だと、ベッドからトイレまで、はって行って1時間かかったという人もいるんです。そのぐらいひどくかったるい。
それから、これも大きな特徴として、物事を楽しめない。今までは楽しいと思っていたことも、全然面白くないと。特に男性の場合は、性欲が失せます。 それから、集中力がだいたい落ちますね。
住  吉
うつ病のサインを色々と伺いましたが、リスナーからもう1つ質問が来ています。

「娘のことをメッセージします。毎日浮き沈みが激しく、接し方に困っています。朝から一言も口を利かない、ボロボロ涙を流して、仕事の失敗談の話をしたり、時には笑顔で職場の話をしたりと振り回されます。どう声をかけていいのか、疲れます。元気よく返事をしても、翌日はまた暗い顔。私たち夫婦も年老いてきて、いつまでも娘に手をかけられません。どうしたらいいのでしょうか?」
住  吉
ご家族にうつのサインが見えて悩むというケースも多いのかなと思います。どうしたらいいのでしょうか?
春  日
このケースだと、単なるうつというような、いわゆるうつ病という文脈で考えていいのかどうか、ちょっと微妙な気がします。おそらくこのお嬢さんは、自立というか、親から離れて巣立っていくという、その辺のことがベースにあって、そこで色々とややこしいことになっていると思うんです。そうしますと、親の態度としてどうすればいいかというと、これも小手先の話ではなくて、親がブレないということです。割とどっしりしていて、しかも親なりに結構楽しいというか、充実しているという姿を見せた方がいいです。というのは、独立の問題となると、子供の側は罪悪感を覚えることが多いんですよね。例えば、親が暗い顔をしていたり、どんよりしていたりすると、そのことが気になって自立しづらくなる、ということが多いんです。ですから、親はブレずに、充実した生活を送っていく。これを心がけるのが一番重要だと思います。
住  吉
振り回されないようにする、と。一歩目はそういうことなのかもしれません。
それでは最後に、春日先生ご自身の健康の秘密を教えてください。
春  日
心の健康に限って言えば、健康の秘密は“猫の奴隷になる”ということです。
住  吉
猫を飼っているんですね(笑)。
春  日
はい(笑)。割と引きこもりがちで、しかもズブズブとものを考えてしまう方なので、猫の世話をしたりすることでやっと我に返るんです。
住  吉
大事ですね。貴重なお話をありがとうございました。
春日先生のご著書『あなたの隣の精神疾患』は、集英社インターナショナルから発売中です。ぜひ手にとってみてください。春日武彦先生、ありがとうございました!
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7月15日(木)のゲストは、医師の森田豊さんです。次回もどうぞお楽しみに!