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第226回 大室正志さん

第226回 大室正志さん

住  吉
住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のゲストは、医師で大室産業医事務所代表の大室正志さんです。
大  室
よろしくお願いします。
住  吉
今日のキーワードは「コラボヘルス」です。
大室さんの専門は産業医実務ということですが、「産業医実務」とはどういうお仕事なのでしょうか?
大  室
一般的にお医者さんと言うと、病院に勤めている白衣を着ている人というイメージがあると思いますが、その方たちは、専門をまず臓器で分けるんです。心臓、消化器、骨など。そこを内科と外科に分けます。例えば、心臓なら循環器内科と心臓外科、消化器なら消化器内科と消化器外科。
産業医というのは、全く違うくくりをします。会社で起こるリスクは全て産業医の担当なんです。例えば、今ですと新型コロナウイルス対策。新型コロナによって、従業員のリモートワークは何割にするのかなど、そういった政策をする時は産業医に問い合わせが来ます。
または、今、メンタル不調の方が非常に多いんですが、例えばそういった方が休職した後、どう働いていただくか。あとは最近ですと、日本の平均年齢も上がってきていますので、例えばがんを患いながらも働きたいという方が、働くことと病気を治療することを両立していく、ということの支援活動などが産業医実務です。
住  吉
今日のキーワードが「コラボヘルス」なのですが、番組サイトで「『コラボヘルス』という言葉を知っていますか?」とアンケートを行ったところ、「知っている」が約10%、「知らない」が約90%でした。多くの方に馴染みのないワードのようですが、「コラボヘルス」とは何でしょうか?
大  室
「コラボ」は、簡単に言うと「一緒にやる」ということですよね。では、どこと一緒にやるか。企業で言うと、健康保険組合と会社、この2つが一緒にやりましょうということです。
健康保険証を見ると、自分の入っている健康保険組合がわかると思うんですが、健康保険組合には2つの活動があります。1つは、お金を徴収して、病気になった時にそのお金を支給するという、いわゆる保険会社の“保険”です。もう1つは、“保健”、いわゆるヘルスケア事業です。自分の保険に入っている人間が、しっかり健康であってもらうための活動。
ではなぜ、健保組合がそういうことをするかと言うと、医療費を預かっているので、膨らむ医療費を抑制したいということが1つ。会社というところはもちろん従業員の健康管理をすることは使命ですし、それは生産性向上にも繋がりますし、労務管理のリスクにもなります。
今まで、会社と健保組合は別々にやっていました。でも、この2つが別々にやると効率が悪いので、協力できるところは一緒に協力していこう、というのが近年の流れになっていて、これが「コラボヘルス」です。
住  吉
“企業と健保組合”ということは、個人はコラボヘルスには関係しないのでしょうか?
大  室
企業と健保組合が一緒になって、従業員、場合によってはその家族も対象になりますが、その三者が一体となってやっていくというのが理想的な意味でのコラボヘルスですね。
住  吉
健康というのは「自己管理」「自己責任」と考えがちですが、そればかりではないということなんですね。
大  室
そうなんですよね。80年代ぐらいに「(病気になるのは)自己管理がなっていないからだ」というようなことが結構言われるようになって、それがある種、現代風な考え方。昔、成人病と言われていたものが生活習慣病という名前に変わりましたが、その時期に結構近いと思います。「“生活習慣病”だから、そうなるのは自分が悪い」という考え方。
住  吉
「あなたの生活習慣が悪い」ということになってしまったんですね。
大  室
でも、今これは色々な論文などで否定されています。例えば、夜勤で工場労働をして朝帰りをする、夜間勤務者。一人暮らしをしていて、賃金もそんなに高くない。朝に開いているお店は、コンビニや24時間営業の牛丼屋しかなかったりするわけですよね。その人たちに、「3食、自分で作れ」とか「野菜と魚を自分で…」とは言えないじゃないですか。だから、自分のせいだけではなくて、社会の枠組みや、家族などの人的ネットワーク、そういったことが健康にかなり影響しているということがわかってきました。だから必ずしも個人のせいではないということですね。
住  吉
そうすると、企業や健保組合がもっと手を差し伸べて、その問題をどう解決できるか、みんなで一緒に考えていこうということになってきたんですね。
大  室
そうなんですよね。だから、「個人のせい」と切り捨てるのではなくて、皆さんが健康であっていただけるような様々な仕組みを、健保組合と会社が一緒になって、研究したり、試行錯誤している最中ですね。
住  吉
お金の面で言っても、健康状態が悪くなってしまう方が増えて、医療費が増えて、保険料が上がって、個人のお財布にも跳ね返ってくる…という意味では、無関係の人は誰もいないということがわかってきますね。
大  室
そうですね。例えば、十数年前と今とで、3%ぐらい保険料を引き上げている会社も全然珍しくないんですよ。これは、医療費の増大によるものです。この保険料は、給料から天引きされているんですよね。従業員と折半ですから、自分の手取りは意外と引かれているんですよ。
住  吉
実際、コラボヘルスに取り組む企業はどんなことをしているのか、実例があれば教えてください。
大  室
大きな会社では、産業医がいたり、健康管理室に看護師さんや保健師さんなどがいて、例えば、「血糖値が高い方は、低血糖を起こすと意識を失ってしまうかもしれないので、運転業務は避けさせよう」など、そういったリスクの管理として、健康診断の結果などを利用していました。
一方で、「特定健診」と言って、健康診断で腹囲を測るようになりましたが、それは健保組合がやっているんです。今までなら「あなたは糖尿病です」「あなたは高血圧です」と言って、会社がリスクとして、社員に対して「残業禁止」「運転業務禁止」などと言っていたんですが、リスクになる前の方、いわゆるメタボリックシンドロームと言いますが、その方に対して食事指導をしたり、生活習慣を切り替えようと言うのは、健保組合がやっているんです。
集合図で言うと、この2つが重なる部分があるので、どちらも別々に保健師さんが指導しているなら、こっちの部分は会社がやるから、こっちの部分は健保組合がやりましょう、とお互いに協力した方が効率的じゃないですか。
そういうことの実例で、会社はリスク管理の部分をやりますので、健保組合はヘルスケアの健康増進の部分をやってください、など。各社によって配分バランスは違うんですが、そんな形でお互いプラスしてちょうど効率が良いようにやりましょう、という考え方もあります。
ただ一つ注意点は、健保組合というのは、従業員がどんな病気で治療しているのかということが全部筒抜けなんです。これはすごく良いデータである一方で、個人情報には非常に注意が必要です。健康管理に役立つという意味では非常に大事なデータなんですが、一歩間違うと、会社に「この人はこういう病気で治療している」ということが筒抜けになってしまうので、もちろん協力はしますが、個人情報の取り扱いはしっかりと取り決めをした上でやっていく、ということでしょうか。