第228回 鴻上尚史さん
- 住 吉
- 住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のゲストは、鴻上尚史さんです。リモートでお話を伺います。
- 鴻 上
- よろしくお願いします。
- 住 吉
- 鴻上尚史さんは、舞台演出、執筆、映画監督、ラジオパーソナリティと多彩で、人生相談の達人でもいらっしゃいます。そんな鴻上さんの話題の本が『親の期待に応えなくていい』。この本を書く時、なぜ親子関係や親の影響に注目しようと思われたのですか?
- 鴻 上
- この本に関しては、実は編集者から「こういうタイトルで書けませんか?」と言われて。僕は人生相談をやっているんですが、毒親の相談が結構あるので、なるほどな…と。とにかくやってほしいなと思ったんです。それが一番の動機ですね。
- 住 吉
- 本の中で「同調圧力」という言葉がキーワードになっていて、日本社会の根底にもありますが、親子関係にも同調圧力というものがある、と思われたのですか?
- 鴻 上
- そうですね。おそらくその編集者も、僕が「同調圧力」ということをずっと言い続けているので、「その視点から解説できるのではないか」と思ったのだと思います。同調圧力は世界中にあって、要は「他の人と同じことをしろ」ということなんですね。それはもちろん日本だけではないんですが、日本は、世間と呼ばれるものが、世界でも唯一と言っていいぐらい強い国なので、そこから生まれる同調圧力がちょっと厄介だということなんですよね。
- 住 吉
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今日は、リスナーの皆さんからも「親の期待、重いですか?」ということについてメッセージをいただいています。
「当時、親の期待をすごく重く感じ、嫌だったし、喧嘩もしました。母が看護師なので、“医療系に進んでほしい”“資格は絶対に取りなさい”と勧められ、さほど興味はないけれど、作業療法士の専門学校に行きました。結局1年で嫌になり、中退。他の仕事にして、母との関係も良好だと思ったら、今度は“いつ結婚する?”“早く孫が欲しい”の期待。当然これも大喧嘩。当時は期待に押しつぶされそうで、精神的にいっぱいいっぱいになりましたが、はっきりと“無理はやめて”と話して落ち着きました。今は子供2人の母になりましたが、反面教師にして頑張りたいと思っています」 - 住 吉
- こうして、人生の色々な節目で要求してくる親御さんも珍しくないですよね?
- 鴻 上
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そうですね。子供を愛することが、自分の思った通りにすることだと思い込んでしまう人はいますよね。
子供が「○○になりたい」と言った時に「なれるわけないだろ」などとすぐ言う親がいたりするんですが、その○○というものに対して、おそらく子供の方がたくさん知っていて。親はイメージだけで答えたりすることも多いので、愛してくれていることと、自分のことをよくわかっていることは別なんだ、ということを理解した方がいいでしょうね。 - 住 吉
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なるほど。もう1通ご紹介します。
「今は夏休みで塾もないので、勉強しながら毎日楽しくBlue Oceanを聴いています。親の期待が重いと思うことが多いです。私は妹がいて、一番上なので、余計にプレッシャーを感じてしまいます。今は進路のことで、親は“もっと上の学校を目指してほしい”と言っているけれど、私自身は今のままでこの辺りの学校に入れればいいかなと思ったり。なかなか意見も合わずにぶつかってしまうことが多いです。子供の立場からしたら、好きにさせてよと思ってしまうことばかりですが、親は心配してくれたり、自分たちのことを考えてもくれているのかなと思ったり、期待が重いと感じながらもなかなかうまく話せなかったりと、悩むことばかりです」 - 住 吉
- 14歳の中学生からいただいています。
- 鴻 上
- まさにその渦中にいるので、とても大変なことですよね。簡単に一言ではなかなか言えないんですが…。だから、本を書いたので、彼女にはぜひ『親の期待に応えなくていい』を読んでもらいたいですね。
- 住 吉
- 本の中に、日本の親は直接的な命令ではなく、遠回しの命令や無言の圧力で子供を支配していると書かれていますが、これはどういうことでしょうか?
- 鴻 上
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よく、「家族は誰も私の意見なんか聞かないの…」というお母さんなどがいるんですが、よく見ていると、お母さんが憂鬱な顔をしていると、家族全体が暗い気持ちになるし、お母さんがニコニコしていると家族全体がニコニコしている。実は家族のムードを決定づけているのは、「誰も私の意見なんか聞かない」と言っているお母さんであることが結構多いんです。
自分がやってほしい、言ってほしい方向に対して、言葉にしないんですが全身でアピールしている、という命令が一番強いんですよね。言葉にすると、「嫌です」「どうして?」「何でそんなことをやらないといけないの?」と言えるんです。でも、例えばテストで悪い点数を取ってきた時に、「何でこんなに点数が低いの?」と言うと、「色々あってさ…」と言えるんですが、ただただ悲しい顔をしてため息をつくと、その方が、本人は自分を責めてしまうので、強力な命令になるということですね。 - 住 吉
- 確かに、言葉は言っている何十秒かで終わりますが、態度はずっと続きますしね。
- 鴻 上
- あと、言うと、子供に「何で?」と聞かれて、それに答える義務が出てくるんですが、表情と態度だけだと、子供に聞かれても「そんなことは思っていないよ」と否定できてしまいます。だからずっと続く、というのはありますね。