第252回 山越志保さん
- 住 吉
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住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のゲストは、医師の山越志保先生です。
今日のテーマは「メンタルヘルス」。
山越先生は、都内のクリニックで内科医をする一方、株式会社さくら事務所を設立。産業医としても、働く人の心と身体の健康をサポートしています。『健康リモートワーク読本 コロナ新時代の働き方』というご著書もあります。 - 山 越
- こんにちは。産業医、内科医の山越です。
- 住 吉
- コロナ禍で、私たちの働き方が大きく変わりました。そして、今はオミクロン株の感染拡大で、再びリモートワークになった方も増えているのかなと思います。このコロナ禍、産業医としてどのような相談を受けていますか?
- 山 越
- 身体のこと、心の相談、家族の問題など、これまでも多くの悩みや問題がありましたが、新型コロナウイルス流行後は、「眠れない」「四六時中、仕事のことを考えてしまう」「仕事が終わっても気が休まらない」という方が増えてきました。
- 住 吉
- そういう悩みが増えているのは、リモートワークの影響が大きいのでしょうか?
- 山 越
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そういった方の、悩みだけではなくライフスタイルや仕事の仕方も細かく聞いていると、そこにキーがあるように感じました。
リモートワークというと、だいたい自宅で仕事をすることになりますよね。いつもは、朝起きて食事をとって着替えて、電車や車に乗って…と、一度外に出ていましたが、食事の後にそのまま自宅で仕事となると、外に出ないので日の光を浴びません。これが、気持ちのスイッチもそうですが、身体のホルモンバランスのスイッチも入らない、ということにつながってくるのかなと感じています。 - 住 吉
- やる気が湧かないのに、強制的に机に座って、「やるか!」と独り言を言って何とかパソコンを開く…という方もきっと多いですよね。
- 山 越
- まさに今おっしゃっていただいたように、プライベートでくつろぐスペースで、「では時間が来たので仕事をしましょう」と切り替えることは、なかなかできないですよね。逆に、仕事終わりに、仕事をしていたスペースでくつろぐ、ということも、なかなかうまくできなくなってしまう方が最初は続出しました。
- 住 吉
- なるほど。それで、むしろ仕事のことをずっと考えてしまう、という方も増えているのでしょうか。
- 山 越
- いくつかの会社を担当させていただいているのですが、驚いたことに、コロナ禍でリモートワークになって、「働きすぎてしまう」という方のほうが多い印象です。
- 住 吉
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そうなのですね。
あとは、会社への帰属意識にも変化が生じているそうですね。 - 山 越
- 自宅やカフェなど、どこでも仕事ができてしまうので、「この会社でなくてもいいのではないか?」と思う方が増えたように感じます。
- 住 吉
- 実際にそういう相談も受けますか?
- 山 越
- 相談を受けられたらいいのですが、中には産業医への相談まで行かず、一人で悶々と悩んで、転職活動をして退職してしまう、という方もいます。退職者が増えた、という会社もありました。
- 住 吉
- そのことに関して、おすすめされていることはありますか?
- 山 越
- 仕事の振り方でおすすめなのが、一人で完結してしまう仕事より、「チームで行う作業を入れること」が大切だと思います。チームで行う作業となると、どうしてもコミュニケーションを取らなければなりません。それがきっかけで、例えばデジタルツールだったり、感染が落ち着いているときは出社して1時間ぐらいお話ししたり、というコミュニケーションが生まれるので、チームで行う作業を入れる、ということをご提案したいと思います。
- 住 吉
- 転職する元気のある方ならまだいいですが、孤立化して、一人で悶々と悩んで、そこから心の元気をなくしてしまう方が出てくることを防ぐという意味で、帰属意識やチーム感が大切なのですね。
- 山 越
- そうですね。帰属意識というと固くなってしまいますが、仕事仲間というゆるいつながりの中で、何となく気の合う人には、自分が悩んだり困ったりすることがあったら話す、ということにつながるのではないかなと。実はメンタルヘルスを進めていくうえで、人に話すということがすごく大切なのではないかと思っています。何か悩みを抱えたときに、自分の話しやすい方に話していただくことが大切です。
- 住 吉
- 話すだけでも変わることがある、ということですね。
- 山 越
- そうなんです。そこでいきなり解決を求めなくても、話すだけで、悩んでいる方の中で整理がつくことがあるんです。
- 住 吉
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わかります。そういうことは多々ありますよね。
なるべくコミュニケーションを取るとなると、まだリモートワークが多かったり、大勢で会ってミーティングすることが難しかったりと、どうしてもデジタルツールを通してのコミュニケーションになると思います。そこにおいても難しさがあるのでしょうか? - 山 越
- 対面で会話していたときの感覚で、チャットやLINEなどテキストベースで細かい言葉のやりとりをしていると、言葉が思ったより相手に強く突き刺さることがあります。そのため、リモートワークで一人で仕事をしていると、悶々と悩んでしまったり…。
- 住 吉
- すごく傷ついてしまったり。
- 山 越
- そうです。
- 住 吉
- フルリモート推奨の会社の、管理職の方の言葉が印象的だったそうですね。
- 山 越
- はい。「フルリモートとはいえ、みんなで仕事をしているのに、なんでこんなに仲が悪くなってしまったんだろう。まるで静電気みたいに、ちょっとした瞬間に火花が散るように喧嘩になってしまう」と言われて。私自身も、このことを非常に実感しました。
- 住 吉
- このことに関しては、何かアドバイスされていることはありますか?
- 山 越
- 世代間で、テキストベースのツールを使う感覚が違うなと、私自身は感じています。学生や小さい頃にポケベルしかなかった、携帯電話も持っていなかった、という世代の方が、スマートフォンのある世代の方と同じようにツールを使いこなすということは、なかなか難しいと思うので、私としては、込み入った話や難しい話は、極力会って話す。それが難しい場合は、オンラインでカメラをオンにして、表情や目線、身振り手振りなどを交えてお話しすることが、とても大切だと思います。