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第261回 伊藤裕さん

第261回 伊藤裕さん

住  吉
住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のテーマは、「高血圧と健診」です。
お話を伺うのは、慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科の医師、伊藤裕先生です。
伊  藤
よろしくお願いします。
住  吉
伊藤先生は、「日本高血圧学会」の前理事長を務められ、まさに、高血圧治療や予防の第一人者でいらっしゃいます。
今日は、高血圧がなぜいけないのか、どうしたら予防できるのか、そして、コロナ禍の生活との関係なども伺っていきたいと思います。
まずは、「高血圧」についての基礎知識です。日本には、高血圧や高血圧予備軍の方はどのくらいいるのでしょうか?
伊  藤
血圧というのは、上の血圧と下の血圧がありますので、高血圧の診断の基準は、上の血圧が140以上、あるいは下の血圧が90以上。それに従いますと、だいたい高血圧の方は4300万人、ですので3人に1人です。病気の中では一番大きな患者数だと思います。
“予備軍”という定義は難しいんですが、今は「高値血圧」という考えがあって、それは上が130~140、下が80~90です。こういった方が、はっきりとした数字ではないんですが、2000万人ぐらいいらっしゃると思うので、2人に1人がそういうカテゴリに入ってくるのではないかと思います。
住  吉
そんなに多いのですね…!
そして、「仮面高血圧」「隠れ高血圧」と呼ばれる方々もいるとのことですが、どのような方なのでしょうか?
伊  藤
これは少し難しい考えなんですが…。病院に来られて、そこで血圧を測ったときには140/90未満なので、その場では「血圧が高くない」と判断されるんですが、その方が家に帰って、家で測った血圧は高い。家庭血圧というのは、診察室で測る血圧よりマイナス5を基準にしますので、家の血圧が135、あるいは85以上あれば高血圧なんですが、家に帰って測ってみると、135/85以上になっているような方を、仮面を被っていると言いますか、そういう高血圧という風に呼んでいます。
住  吉
それは、たまたま病院に行ったときに低くなるのですか?
伊  藤
そんなことはないんです。基本、薬を飲んでいる方ですので、薬は朝に飲まれる方が多いですよね。それで午前中に通院する方が多いので、薬が効いている間は下がっているんですが、1日中は効いていない、ということ。
それだけではなく、特に日本人に多いんですが、「早朝高血圧」という、朝起きたときにものすごく上がる方がいるんです。それでその後は少し治まってくる。それから、「夜間高血圧」という、寝ている間の血圧が高い方。そういう方々も、午前中は薬である程度抑えられていても、それ以外は高い、ということなので、普通の高血圧と同じぐらい怖いんです。
高血圧の診断のだいたい2~3割はこの仮面高血圧です。「うまくコントロールされている」と判断されるんですが、実は24時間で見てみると、そんなに血圧が低くない、という方がいらっしゃいますね。
住  吉
高血圧は、そもそも何がいけないのか、どのような病気の引き金になるのでしょうか?
伊  藤
高血圧は、血管にかかる圧力が高いという病気ですので、血管が傷んできます。ですから、一番はっきりするのは脳卒中、特に脳出血ですね。血圧がすごく高かった時代、今から50年ぐらい前は、高齢者の方の平均血圧が160ぐらいありました。今は140ぐらいになりましたが。そうすると、脳出血でいきなり倒れる方が多かったわけです。ですからそれはわかりやすいんですが、最近は、血管が悪くなることで脳梗塞になる方が多いですし、認知症の方も増えてきました。それから心臓は、心筋梗塞、最近では心房細動や心不全など、そういった色々な血管の病気を起こします。
住  吉
色々な病気と関わっているのですね。しかも、認知症も高血圧と関係があるということは、あまり知られていないような気がします。
それでは、その高血圧の原因ですが、高血圧になりやすい食事や生活習慣はあるのでしょうか?
伊  藤
血圧と聞いたら、誰でも“食塩”と思いがちですし、実際日本人ほどたくさん食塩をとっている民族はいません。たしかにそれで血圧が上がりますが、意外と知られていないのは、肥満になると高血圧になるんです。この肥満の高血圧は非常に厄介で、塩分を控える、ということだけではなかなか血圧は下がりません。特に、糖分、甘いものをとると当然肥満にもなりますが、糖分をたくさんとると、身体が塩分もたくさん吸収しやすくなります。食事のことを考えてみると、もちろん塩分も問題ですが、糖分の問題、それからカロリーが多いということも含めて、高血圧の原因になります。それから、もちろん運動不足の問題も大きいと思います。
住  吉
予防に必要なのは、今のお話ですとやはり「食事」と「運動」ということでしょうか。
伊  藤
そうですね。
それからストレスの問題も大きいですね。人間関係の中で、緊張するとかトラブルが多いとか、そういうことも原因になります。
睡眠がとれなくなる、ということもストレスの一つですので、そういった生活全般の不具合が、高血圧の原因になります。
住  吉
高血圧予防として、「食事」についてはどのような方法がおすすめされているのでしょうか?
伊  藤
日本人の場合は、添加する調味料で塩分をとっていて、中でも最も多いのが醤油です。ですから、「減塩醤油を使ってください」という話は一応していますが、なかなか難しいですよね。僕の考えとしては、同じだけ塩分の濃度があっても、食べる量を半分にすれば塩分も半分になるわけですよね。そのことは糖分の問題やカロリーの問題にもありますので、全体的に食のボリュームを下げる、ということも重要かなという気がしています。
住  吉
次に「運動」ですが、運動に関してはどのように指導されていますか?
伊  藤
「肥満を解消するために運動する」という話もあるんですが、運動することで肥満は解消されないんです。肥満の方は、食生活の問題です。ただ、運動するということ自体は、体重云々ではなく、血圧を下げたり血糖を下げるということにおいて、非常に重要なことです。
やり方は色々です。「毎日30分歩きましょう」と言われているのが一応標準ですが、なかなか毎日30分歩けませんよね。そういう方は週1回でもいいので、がっつり筋トレできる方はやるといいと思います。
それから、じっとしていないことも別の意味で大事なんです。20分以上同じ場所に座っていることは、仕事ではよくあることですが、それはせずに、一旦立ち上がる。運動ではないですが、安静にしていない、ということも大事なことです。
住  吉
それはどのような意味で大事なのでしょうか?
伊  藤
じっとしていると、筋肉が動かないということです。ずっと同じ状態が続いていると、身体がそういう方向に向いてしまうというか。ですから、一旦リセットするような時間が必要です。激しく筋肉を収縮させることはしていないので、運動とはまた違う意味ですが、少なくともじっとしていない。お年寄りの方は、家でずっとテレビを観ていたりしますよね。そういうこともよくないんですよね。
住  吉
先ほどのお話にも出ましたが、「ストレス」は高血圧にとって敵だと。
伊  藤
そうですね。その方がどういう場面でどう緊張するのかがわからなくて。「白衣高血圧」と言われているんですが、病院に来たときだけ血圧が高いんです。家に帰ると普通の血圧なんですが…。
住  吉
緊張してストレスで高血圧になってしまうのですね。
伊  藤
正常の血圧の方に比べると、リスクも少しは上がります。
病院にはそんなに頻繁に行かないのでいいんですが、同じように、例えば職場だったり、家に帰ったほうが緊張するなど、その人によって違うわけです。それは毎日のことですよね。ですので、そのストレスの中での高血圧は身体に悪いです。