第274回 西多昌規さん
- 住 吉
- 住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のテーマは、「メンタルヘルス」です。精神科医で、早稲田大学准教授の西多昌規先生をお迎えしました。おはようございます。
- 西 多
- おはようございます。
- 住 吉
- 身体の健康はもちろんですが、心の健康も大事ということで、今日はまず「リモート疲れとストレス」について考えてみたいと思います。
就活も会議もリモートだけだったところから、最近はハイブリッドになりました。ただ、リモートがゼロになることはもうないかなという世の中になりましたよね。 - 西 多
- そうですね。コロナ禍が終わりつつあるのかどうかはわかりませんが、リモートはゼロにはならないですよね。
- 住 吉
- リモートの中だからこそ、心が疲れている方が多い、という感じはありますか?
- 西 多
- 色々な要素で、リアルで働いているときとは違う疲れがありますよね。
- 住 吉
- そうですよね。オンライン会議やリモートワークならではの心身の疲れ方があると思います。リモートワークの特徴的な疲れ方には、どのようなものがありますか?
- 西 多
- リモートワークの経験がある方は、朝から晩までリモート会議がいくつもあると、夕方や夜にどういう疲れがあるかを想像してほしいです。目は疲れるし、腰も疲れるし、なんだか頭も疲れるし…ただ、振り返ってみると全く歩いてもいないし、何なんだろうな…ということですよね。
- 住 吉
- 小さな画面をのぞき込んで集中している、リモートワーク特有の疲れですよね。
- 西 多
- そうですね。視線も定まらないですし、相手の顔の表情を読まなければいけない、あるいは相手の反応、日本ならではの“空気を読む”ということは難しいですね。
- 住 吉
- そうですね、リモートでは空気が読みづらいです。
自分の言ったことをきちんと受け入れてもらえているかどうかもわかりづらいですよね。 - 西 多
- そうです。リアルの現場だと何となくわかるのですが、オンラインだと全くわからないので、違和感がありますよね。
- 住 吉
- 気疲れや、不安でもやもやしたものが溜まって、心の疲れになりますよね。
のぞき込む姿勢も、ずっと同じ体勢だと首や肩がこったり、こめかみが疲れた感じがあったりしますよね。 - 西 多
- ずっと座っていることは、心身のあらゆることにおいて全く良いことがない、と諸研究でほぼ実証されているのです。座る時間が長いほど、病気が増える、幸福度が下がる…メンタルヘルスの悪いところです。
- 住 吉
- 他にも、言われてみると確かに関係があるなという、オンライン会議やリモートワークによる心の疲れの原因はありますか?
- 西 多
- 数えればキリがないのですが、人にどう映っているか、特に、私は学生のオンライン講義も行っていて、例えば、女子学生はあまり顔を出したくなかったり、あるいは、音がずれて、すぐに答えが返ってこなかったり。答えてきても、0.何秒かずれているらしいのです。このずれで、脳の違和感があるという研究もあります。
- 住 吉
- 聞き取りづらいですし、一生懸命集中して聞くので疲れますしね。あと、自分がどう映っているか、ということもすごくわかりますね。あれだけ自分の顔を見ながら会話するということは、今までなかったと思うのですよ。
- 西 多
- ほとんどないかもしれないですね。
- 住 吉
- 「映りが悪いな」「顔色が悪いな」など、仕事とは関係ないのに、自分の見た目の嫌なところと向き合わされている感じが、実はすごく嫌だなと思っていました。それも、専門家から見ても、全うな心のストレスになっていると?
- 西 多
- あまり気にならない方は関係ないかもしれませんが、例えば、就活で「少しでも良く見せよう」「自分を良く見せたい」と思っている方はしんどいかもしれないですね。
- 住 吉
- そうですよね。そのようなことから、リモートワークは心の不調の原因にもなり得るそうですね。
- 西 多
- そうですね。リモートワークは、一見、満員電車にも乗らなくていいですし、楽は楽なのですが、楽に流されると、結局人に会わないですし、ずっと座ってばかりですし…。何より、学生に話を聞きましたが、朝から、暗い寮やアパートの部屋で座って授業を聞いているわけですよ。朝、暗いところにいるということは、メンタルヘルスでは最悪と言っていいのです。
セロトニンという不安やうつを抑える物質、あるいは夜の睡眠を深めてくれるメラトニンという物質は、朝、明るいところにいないといけないのです。これが、狭くて暗い部屋で、オンラインでばかり話を聞いていると、明らかに不健康ですね。 - 住 吉
- 専門家の視点で見ていても、そういう方が増えたなと感じますか?
- 西 多
- そうですね。やはりコロナ禍のリモートワークで、明らかに気楽になっている方もいるのですよ。無駄な行事がなくなったり、満員電車に乗らなくても良くなったり、睡眠時間が増えたり。ただ、楽に流されていると、リアルな人との付き合いがなくなったり、孤独になったりします。
あと、実際、会社や学校に行っていれば、多少は動きますよね。それもないですし…。特に女性は、ランチやカフェなどに行く機会が、一昨年はほとんど奪われてしまいました。お喋りする機会が奪われたことは、メンタルヘルスにとって非常に悪い影響があって、それでうつが増えたり、自殺が増えたりしています。 - 住 吉
- そうなのですね…。お喋りは大事なんだなと改めて思いましたが、解決策はありますか?「自分もそうかも…」と思っている方もいるかもしれません。
- 西 多
- リモートワークによって他人との付き合いが減ってしまったという方の中で、今それをまさに復活させている方も多いと思います。これは大事なことです。僕の考えでは、これからは自分のペースで多少頑張って、飲み会など、リアルで人に会う機会を作ったほうがいいのかなと思っています。
- 住 吉
- バランスが取れる可能性があるということですね。
- 西 多
- そういうことです。ただ、やはり個人差があります。外向的な方は、コロナ禍はしんどかったですよね。内向的な方は、ずっと1人はまずいですが、毎日人と会うことはしんどい、と。ですから、内向的な方や人付き合いが苦手な方は、自分のペースで、なるべくお誘いは限定的に。ただ、長い間1人でいるということは良くないですよね。
- 住 吉
- なるほど。
そして、ストレスを和らげる大きなカギが“質のいい睡眠”だそうです。西多先生は、早稲田大学睡眠研究所の所長でもいらっしゃいます。質のいい睡眠をとるためのヒントを教えてください。 - 西 多
- “質のいい睡眠”のヒントは、先ほど申し上げた、「朝明るいところにいる」「日中適度に動く」「適度に人と話す」、そういうことが大事だと思います。
ただ、リモートだとどうしても睡眠時間が長くなってしまうのです。かつ、特に若い方は夜型になってしまいます。いつまででも、仕事をしたり、好きなことをしたりできますからね。睡眠時間は長くなりますが、質が悪い、という現象が見られます。
あるいは、今はハイブリッドの方も多いと思います。毎日デコボコの生活リズムが、逆に良くないという方もいるのです。 - 住 吉
- 決まった生活リズムが作れないということですね。
- 西 多
- そうなんです。この日は早起きして、この日は昼まで寝ている、という。それが合う方もいるのですが…。なので、質のいい睡眠をとるには、1つは「なるべく同じ時間に寝て、同じ時間に起きる」、そして、「朝は明るいところにいる」「日中適度に動く、喋る」というところが大事かなと思います。