第276回 森田豊さん
- 住 吉
- 住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のゲストは、医師で医療ジャーナリストの森田豊さんです。リモートでお話を伺います。よろしくお願いいたします。
- 森 田
- よろしくお願いいたします。
- 住 吉
- 新型コロナウイルスの感染者が再び増加傾向になり、「第7波」という言葉も聞くようになってきました。森田先生はどう見ていますか?
- 森 田
- 感染者が増加した理由は、感染力が高いBA.5に置き換わってきているということや、3回目のワクチンの発症予防効果が、接種後20週間後以降弱まっていること。あとは、夜間の滞留人口が増加したり、冷房などによって換気が難しかったりと、いくつかの要因が重なって、こうして第7波となってしまっているのでしょうね。
- 住 吉
- 私たちとしては、引き続き注意していくしかないですね。
- 森 田
- そうですね。基本的な感染対策に注意していく、ということでしょうね。
- 住 吉
- そして、森田先生が最近、お母さまの介護に関する本をお出しになったということで、そのお話を伺います。『医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと』というタイトルです。実体験を書いたのですよね。
- 森 田
- はい。私の母は現在94歳で、この23年間認知症を患いながら過ごしています。自分が医者としてだけでなく、家族、息子として、23年間どうだったかを振り返りたくて、3年かけて、姉や家内から色々と話を聞いてまとめてみました。
認知症の予防や診断、介護には、正解はないのだと思うのですが、医師の私としては「こうすればよかったのではないか?」ということを見つめ直して、読んでくださった方と情報共有をして、何らかのヒントになればと思って書きました。 - 住 吉
- 23年前というと、お母さまは70代前半ですか?
- 森 田
- そのぐらいですね。
- 住 吉
- 最初に異変を感じたきっかけは何でしたか?
- 森 田
- 最初は、物忘れというよりは、性格が変わったんです。普段、それまでは派手な服、真っ赤な服を着て、お化粧をたくさんして、お出かけしたり、友達と喋ったりすることが大好きだったのですが、急におしゃれをしなくなって、口紅も塗らなくなって、外に出なくなって、外食にも行かなくなって…。今思うと、それがきっかけだったのだなと思います。
さらに、いつも温厚なのですが、少し怒りやすくもなりました。それから少し遅れて、物忘れがひどくなって、朝ご飯を食べたかどうかも忘れるようになって。朝8時に食べたのに、10時に「私、朝ご飯を食べていない」と言い出したんですよね。
最後は、バナナ事件や、ぼや事件が起きてしまって。散歩中にバナナを買いまくったようで、冷蔵庫に7~8束、ですから40本ぐらいのバナナがあって、びっくりしましたね。あとは、鍋の火を消すことを忘れて、ぼや騒ぎが起きて。それからは厳重に、火などを自分で使わないようにして、介護していきました。 - 住 吉
- すぐに認知症だと受け止められましたか?
- 森 田
- 話しづらいですが…23年前は、あまり認知症が世間に広まっていないということもありました。ただ、私は医師ですので、きちんと情報を知っていて、すぐに専門外来に連れて行って、専門医に診てもらわなければいけなかったのですが…息子として、母が認知症になったことを受け入れる、ということが嫌だったという気持ちもありました。幸せそうにしている母を見ると、連れて行かなくてもいいのかな…と。医者としては最低と言われたらそれまでなのですが…。
さらに、母に認知症検査をお願いしたこともあったのですが、頑固に拒むんですよね。「私はそんな病気ではない。どこも悪くない」と。結局、母をきちんと説得して専門医に連れて行くことが遅くなった、ということもあるかなと思いますね。身内の病気を適切に導くことは、なかなか難しいのかなと思いましたね。 - 住 吉
- 最終的には何をきっかけに、お母さまが検査に同意されたのですか?
- 森 田
- 私がとにかくお願いして、「どうか僕のために検査を受けてくれ」と。「お母さんのためではなく、僕のためなんだ」と言ったら、「じゃあ、しょうがないわね」と。この話を認知症の専門医にしたら、「とてもいい説得の仕方だ」と言ってくださったことを覚えています。
- 住 吉
- 認知症について、23年前はまだわからないことも多かったということですが、最近はだいぶわかってきた部分もあると思います。認知症の原因はわかっているのでしょうか?
- 森 田
- 「アルツハイマー型認知症」ですが、遺伝よりも生活環境の影響が大きいとされています。予防には何と言っても、対人接触、人と接することがとても大事で、なるべく好きなことや生きがいを見つけることも大切と考えられます。その他、有酸素運動をしたり、魚介類を食べたりすると、認知症予防になると言われています。 さらに最近注目されていることは、認知症の一歩手前である、「軽度認知障害」。例えば、性格の変化など、そういった部分で認知症を見つけて、生活習慣を是正すると改善できるということもありますので、早めに見つけて、早めに専門医に診てもらって、指導を受けるということが大事なのかなと、自分でも反省を込めて今思っています。
- 住 吉
- 今、お母さまは94歳でいらして、どのように過ごされているのですか?
- 森 田
- 今は介護施設に入っていて、私のこと以外は、ほとんど名前と顔が一致しないのですが、とても元気そうに過ごしています。私が行くと、とても喜んでくれて、先日も会うや否や、「豊、今日はこの施設に泊まっていきなさいよ」と言っていました。最近の記憶はほとんどないのですが、人の生き方や若いころのこと、個性などは保たれていて、しっかりと話をしています。ですから、今でも私に「しっかり栄養と睡眠を取らないとダメ」「人間は努力すれば願いは叶うはず」などと言うんです。長生きしてくれて、どんどん色々なことを教えてもらいたい、と今でも思っています。
- 住 吉
- 息子さんのことが今もかわいいのでしょうね。
森田先生は、実際にご自身で介護をされてみて、介護において大切なことは何だと思いますか? - 森 田
- これから、高齢化社会にさらに拍車がかかりますので、誰もが「介護」という問題と直面するようになっていくと思います。そのときに、介護の肉体的・精神的な負担は非常に大きいので、一人で背負わず、できるだけ複数の人で情報共有をして、分担しながら行うことが重要なのかなと。中には、家族だけで対応できないことも出てくると思うんです。その場合は、役所や公的施設などに早めに相談することが大事かなと思います。
私の場合は、認知症検査までの道のりが長かったので、例えば、認知症検査を制度化する、ということもいいのかなと。制度にのっとって、「この時期に検査を受ける」ということがわかっていれば、誰しもがその制度にのっとって検査を受ける。そうすると早めにわかるのではないかなとも思いますね。