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第278回 氏家無限さん

住 吉
氏家先生は、これまでにアフリカや東南アジアでも医療や研究活動を行ってこられたと伺いました。具体的には、どのような場所でどのような活動を行っていらしたのですか?
氏 家
今、国立国際医療研究センターで働いているのですが、その前は長崎大学の熱帯医学研究所というところに勤務していました。そのような関係で、アフリカのマラリア対策の蚊帳を配るお手伝いをしたり、どのぐらいの住民の方がマラリアに感染しているかを調査したり。その他、ケニアにあるスラムの公立医療機関でフィジシャン・アシスタントとして働かせていただいたりもしました。
住 吉
なるほど。“熱帯医学”というのは、熱帯の地域での感染症がご専門だったということですか?
氏 家
定義がなかなか難しいのですが、熱帯地域は感染症も非常に多いですし、治療なども十分にできる環境ではないということもありますので、そういった熱帯地域でかかる感染症について研究を行っているのが熱帯医学研究所です。
住 吉
今、世界的な感染症という意味では、新しく「サル痘」という言葉をニュースで耳にするようになりました。日本でも今週、感染者が確認されたということですが、まず「サル痘」とはどのような感染症なのでしょうか?
氏 家
「サル痘」と聞くと、サルの病気というイメージを持ちやすいかもしれませんが、これは1950年代にサルで見つかったウイルスということで、「サル痘」という名前がついています。「天然痘」という、全身に水疱ができる病気がありましたが、そのウイルスに近い症状が出る感染症です。元々ヒトには1970年から感染した報告があるのですが、今年5月に広がっていく前までは、基本的にはアフリカだけの病気とされていました。ただ、5月にヨーロッパで感染者が増えたというニュースがあってから、ここ2~3か月ぐらいの間にどんどん感染者が広がっていて、すでにアフリカで流行地域だとされていたところ以外から、60か国以上1万6千人以上が報告されているという状況です。こういった状態を鑑みて、WHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」ということを宣言しました。
住 吉
日本でも感染者が見つかると、皆さん心配になると思いますが、私たちは日々どのように備え、どのように考えていけばいいのでしょうか?
氏 家
現時点で感染者の特徴を評価すると、90%以上の方は男性の患者さんで、男性の方との性交渉がきっかけで感染が広がっているということがわかっています。水疱の中にウイルスがたくさんいるので、感染している部分と皮膚が接触することによって感染が広がると考えられています。
喉にもウイルスがいるので、飛沫感染も可能性はあるとされていますが、多くの場合は接触感染で感染が広がるだろうと言われています。ですので、日常生活の中で知らずに感染してしまうというようなことは、基本的には起こらないと考えられています。
住 吉
では、サル痘の感染経路については、ずいぶんわかってきたのですね。
氏 家
はい。対策をしなければいけないターゲットが明確になっています。ですので、そこに適切な情報を届けて、適切な対策をとっていただくことで、感染がこれ以上広がっていくことを食い止めることができるだろうと考えています。
そのためには、お互いの円滑なコミュニケーションが大事になってきますので、そういった患者さんを差別したりしない社会環境も大切な観点だと思います。
住 吉
予防対策、感染対策はありますか?
氏 家
今、新型コロナの予防で公共交通機関の中や人混みではマスクをする、食事をする前は手洗いを行う、などと言われていますので、こういった基本的な感染対策をしっかり行っていけば、このサル痘についても確実に予防できるだろうと思います。
住 吉
では、対策としては同じことをしていけばいいのですね。
あとは、ワクチンについてもニュースで取り上げられていますが…。
氏 家
はい。このサル痘が、天然痘ウイルスとかなり近い感染症で、1980年に天然痘が世界から根絶されたことで、天然痘対策が行われなくなり、ワクチンを受ける人が減ったため、社会全体の免疫が下がっていって、感染者が増える原因になったのではないか、ということも考えられています。
日本には、1980年まで天然痘対策に使われていたワクチンが備蓄されていて、これがサル痘に対しても有効であるというデータが多数出ていますので、そういったワクチンの活用についても今後検討されていくだろうと思います。
住 吉
なるほど。そうすると、もしかしたらまた天然痘のワクチンをサル痘対策のために打つということが、社会的に起こる可能性もあるのですね。
氏 家
全員が打つというよりは、感染者が出たときに、周りに広がっていくことを食い止めるために、濃厚接触者と言われる、一緒に暮らしている方や、患者さんを直接ケアするような医療従事者、検査の方、そしてリネンなどのお掃除をする方も病室に入りますので、そういった患者さんと関わる方に、事前に予防接種を受けていただくことが推奨されています。
住 吉
濃厚接触になった後でも、ワクチンを打つと予防になるのですか?
氏 家
確実に予防できるのは、濃厚接触してから3~4日までと言われていますが、一応2週間以内にワクチンを打てば、発症が予防できない場合でも、重症化を予防できるとされています。ですので、濃厚接触者に該当した場合は、2週間以内の予防接種が推奨されています。
住 吉
きっとさらにお忙しい毎日になるのかなと想像いたしますが、その中で、氏家先生ご自身の健康の秘密を教えてください。
氏 家
健康の秘密は、“睡眠”です。忙しい間にも、しっかり体を休めないと仕事の効率も下がりますので、少なくとも6時間、場合によってはできないこともありますが、睡眠時間を確保するように努めています。
住 吉
氏家無限先生、ありがとうございました!
ここで、あなたの健康をサポートする協会けんぽ東京支部からのお知らせです。新型コロナウイルスの感染を警戒して、必要な健診や受診まで控えていませんか? 行きすぎた受診控えは、健康上のリスクを高めてしまう可能性があります。コロナ禍でも、健診や持病の治療、お子さまの予防接種などの健康管理は大切です。医療機関や健診会場では、換気や消毒でしっかりとした感染予防対策を実施しています。健康に不安がある場合は、まずかかりつけ医に相談しましょう。
次回もどうぞお楽しみに!