第285回 ヤマザキマリさん
- 住 吉
- 住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のゲストは、漫画家・文筆家のヤマザキマリさんです。おはようございます。
- ヤマザキ
- おはようございます。よろしくお願いいたします。
- 住 吉
- ご無沙汰しています!直接会うのは10年振りぐらいでしょうか。
精力的にお仕事されていて、最近で言うと、山下達郎さんの最新アルバム『SOFTLY』のジャケットに使われている達郎さんの肖像画を、マリさんがお描きになりました。(岸田劉生の)「麗子像」のような描きこみで…。 - ヤマザキ
- 「麗子像」というのは正しくて、岸田劉生は元々レオナルド・ダ・ヴィンチや北方ルネサンスに憧れていた人なんですね。私も、フィレンツェのアカデミア美術学院で11年間油絵を勉強していたんですけど、ずっと北方ルネサンスだったんですよ、私がやっていたのは。なので肖像を描くと、どうしても岸田劉生と同じような感じになってしまう(笑)。でも達郎さんはそれでいいとおっしゃった…というか、彼が「君は漫画家である前にまず油絵をやってきた人間なんだから、いずれ僕の肖像画を描いてください」と。もう6年ぐらい前かな、そう言われていたんですけど、それで今回11年振りのアルバムを出すときに、「その肖像画を使いたいので描いてください」という話になりました。
- 住 吉
- 本当に動き出しそうな絵で…。
- ヤマザキ
- 写真の加工だと思っている人たちが多いみたいですね。
- 住 吉
- そう思うくらいリアルです。お時間もかかりましたか?
- ヤマザキ
- 20年振りに描いたので、2か月半ぐらいですかね。でも描けてよかったです。
- 住 吉
- そういうお仕事もされていますし、漫画やエッセイも精力的に発表されていますが、今回マリさんが監修されたご本があります。『Woman’s Style100』という本で、逆境を乗り越えた女性たちの生き方を「世界版」と「日本版」の2冊、合わせて200人分がこの本にまとまっています。
世界版には、マザー・テレサやココ・シャネル、トーベ・ヤンソン、エリザベス女王など…。監修されて、お一人おひとりのことを調べたり読んだりしたと思いますが、マリさんの感性で「この人はすごいな」と気になった方はいますか? - ヤマザキ
- 元々こういう方たちがいますよと提供していただいた資料に、私がプラスアルファで足した人も何人かいるんですけど、それが冒頭部分に出てくる、NASAの宇宙計画を支えた3人組の女性で。
- 住 吉
- 映画になりましたよね。
- ヤマザキ
- そうなんですよ。邦題だと『ドリーム』になっているんですけど、原題は『Hidden Figures』、“隠された3人の功績”というような意味のタイトルです。3人ともアフリカ系の方たちであり、しかもまだ人種差別が激しかった頃のアメリカで、3人とも天才級の理数系の能力を携えていて、NASAに雇用されるんですけど、その中で大変な苦労をしていくわけです。でもこの3人がいなかったら、例えばマーキュリー計画やアポロ計画は実行できなかったのではないかと言われるぐらい、ものすごく要になった人たちですね。NASAのコンピューター機能を最初に稼働させた人も、このドロシー・ヴォーンという人だったり。
- 住 吉
- ドロシー・ヴォーンとキャサリン・ジョンソンとメアリー・ジャクソンの3人。
- ヤマザキ
- はい。3人それぞれ持っているスキルが違うんですけど。映画の中では3人同時期にいて、本当は少し時間差があるんですけど、この時代に、こういったものすごく社会的弾圧が高い中でも、最終的には認識されて。この人たちがいなければ、今のNASAはなかったと言ってもいいのかなというぐらい。
- 住 吉
- 認識されてよかったですが、本当は仕事しているときにね…。トイレや食事も別で、それが当たり前のようになってしまっていた時代なのですものね。
- ヤマザキ
- そうですね。有色人種の使うお手洗いと白人女性の使うお手洗いが違うので、彼女たちはそういう点でも苦労をしたというエピソードがありますね。
- 住 吉
- 日本版も、津田梅子さんや向井千秋さん、川久保玲さん、オノ・ヨーコさんなどたくさん載っていますが、特に気になった方はいますか?
- ヤマザキ
- 私らしい人選と言われそうですが…兼高かおるさんですね。
- 住 吉
- 2回ぐらいインタビューしたことがあります。
- ヤマザキ
- そうなんですね。私も亡くなる前にお会いできて。
- 住 吉
- 品があって、華やかで…。
- ヤマザキ
- そうなんですよ。兼高かおるさんが亡くなられた後に、「兼高かおる賞」が創設されたんですけど、私が初回でその賞をいただいて。
- 住 吉
- 素晴らしい!
- ヤマザキ
- 本当に漫画家をやっていなかったら、第2弾『兼高かおる世界の旅』をやりたいくらいですよ。
- 住 吉
- わかります! 昔、『兼高かおる世界の旅』という、すごいテレビ番組があったんですよね。まだ国際旅行が当たり前ではない時代に。
- ヤマザキ
- そうです。1960・70年代に。兼高さんはそのときおっしゃっていたかわからないけど、一応ディレクターやカメラマンがいるのに、もどかしくなって彼女が全部自分でやってしまうんですよ。自分でカメラを回し、自分でナレーションをし、自分でリポーターをやり、その後の編集も全部自分でやって。だから素晴らしい旅番組なんですよ。主観がきちんと確立しているんです。
旅番組をやっていると、カメラマンの撮りたいもの、ディレクターの撮りたいもの、リポーターの見ているものを一体化するのは難しいじゃないですか。でも兼高さんの場合は、彼女の目線で見て、彼女がとらえたものという、ものすごく充実した主観の内容になっていたのでおもしろかったのではないかなと思いますね。