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第291回 大野真司さん

第291回 大野真司さん

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茂 木
住吉美紀さんに代わって、茂木健一郎がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のテーマは、「乳がん」。ゲストは、がん研有明病院 副院長で乳腺センター長の大野真司先生です。よろしくお願いいたします。
大 野
よろしくお願いいたします。
茂 木
大野先生、「乳がん」は今、日本人の間でも増えていると聞きますが…。
大 野
増えていますね。女性で一番多い悪性の病気が「乳がん」なんです。毎年10万人弱の方がかかっていて、今、9人に1人は乳がんになると言われています。
茂 木
“ステージ”という言葉もよく聞きますが、やはり検査をして早期発見したほうがいいのでしょうか?
大 野
そうですね。早く見つけたほうが生存率は高いですし、お薬の治療や手術も軽くて済むので、早期発見は非常に重要です。
茂 木
先生は講演の中で、「エスカレーション」「デ・エスカレーション」というお話をされていたと思うのですが、リスナーの方に向けて、改めて教えていただいてよろしいでしょうか?
大 野
はい。同じ治療効果が得られるのであれば、体に負担のない治療をしたほうがいいですよね。例えば、乳房切除と乳房温存ですと、実は生存率は一緒なんです。
茂 木
そうなんですか!
大 野
はい。そうすると、残せるものは残したい。それから、脇のリンパ節は、今までは20~30個全て取っていましたが、今は転移がなければそれ以上は取らない、もしくは1個ぐらいであれば取らない。これは、入口のリンパ節をうまく見つけることができるようになったから、なんです。
茂 木
ということは、“念のために抗がん剤治療をしましょう”という考え方が「エスカレーション」だとすると、“減らしてもいい場合もある”という考え方が「デ・エスカレーション」ということですか?
大 野
その通りです。
茂 木
もし乳がんにかかってしまって、先生に治療方法を相談するとき、患者さんとしてはどのように話したらいいのでしょうか?
大 野
まず私たちは、その方の気持ちをしっかりと聴くようにしています。そして、残したい方にはできるだけ残す。ただ、残せない方もいらっしゃるんです。そういうときには、今は全摘をして乳房再建という方法が使えるようになりました。ふくらみを残したいという方は多いですので、できるだけ再建術をします。自分の組織を使う方法と、インプラントを使う方法、この2つは今保険適用になっていますので、患者さんの思いや、長所・短所、そういうことを考えながら再建しています。
それから、再建してもしなくても、生存率は一緒なんです。ですから、ふくらみがほしい人には残す。ただ、それはいいやという方も多くいらっしゃいますので、そこはご本人との相談で決めていきます。
茂 木
治療も色々な方法が進んできていると思うのですが、何よりも早期発見が大事ということで、先生はプロ野球球団と協力して啓発活動されていると伺いました。
大 野
はい。私は福岡ソフトバンクホークスと一緒に啓発活動をしています。年に1回は“タカガールデー”と言って、球場全体をピンクにして、そこで乳がん検診をしたり、乳がんの知識の啓発をしたりする、ということを球団と一緒に行っていまして、今、だんだんとその動きが広がっています。アメリカでは、母の日に全球団がピンクリボンの活動をするのですが、日本もおそらくこれから12球団全てがそういう活動をするような時代が来るのではないかなと思います。
茂 木
先生は以前、九州大学病院にいらっしゃって、今はがん研有明病院ということで、患者さんとしては、地域の中核病院、大病院に行きたいなという気持ちもあると思うのですが、初診はどこに行けばいいのでしょうか?
大 野
まずは、市町村の検診を受けられる方が多いです。そこで異常を発見されたり、もしくは、自分でしこりに気づいたりしたときは、乳腺外科というところが一般的ですね。最近はクリニックが増えていますので、乳腺専門のクリニックに行く方が多いように思います。
茂 木
どのような先生を選べばいいのか、ということも患者さんやご家族の方は迷われると思うのですが…。
大 野
がん診療連携拠点病院が全国に400以上あって、都道府県にも1つずつあります。まず、そういうところが中心になっていくと思いますし、日本乳癌学会のWebサイトを見ると、専門医の名前の一覧表がありますので、その乳腺の専門医がいるところを選ぶといいと思います。
茂 木
今回、乳がん検診について、リスナーの皆さんから色々なメールをいただいております。

「(乳がん検診を受けた理由は)身近な人で、乳がんになった方がいたため。早期発見で、大事に至らずに済みました。改めて健診の大切さを実感しました!」(40代女性)
大 野
早く見つけるということは、つまり小さく見つけるということですので、乳房も残せる可能性が高くなりますし、抗がん剤もいらなかったり、何より医療費もかからない。そして病院に通う回数も減るので、生活への影響もありますね。
茂 木
初期だと抗がん剤治療は必要ないのですか?
大 野
元々再発率が低い状態で見つけると、抗がん剤はいりません。
茂 木
そうなのですか。そうすると、患者さんもかなり負担が軽くなりますね。
大 野
はい。今は年間100万円以上の治療費がかかったりしますので、そういう点でも、小さな治療で済むということは大事ですね。
茂 木
なるほど。そして…。

「(乳がん検診を受けた理由は)検診のカードが市から届いたから。年齢的にもそろそろ気になるかと思って受けました」(50代女性)
茂 木
50代の方ですが…。
大 野
今、日本では40歳から検診を受けられます。そして、40歳、45歳、50歳と、5歳ごとにカードが送られてきて、無料で受けられるというシステムがあります。ただ、5年ごとでは回数が少なすぎますので、ぜひ2年に1回は受けてほしいと思います。
茂 木
なるほど。
そして、30代女性の方は…。

「(乳がん検診を受けたことがない理由は)胸の検査に少し抵抗があるからです」(30代女性)
大 野
マンモグラフィというレントゲン写真は、胸を挟んで写真を撮るのですが、挟んで薄くすればするほど、小さながんが見つかるんです。したがって、皆さんには「少し我慢してくださいね」と言っています。
茂 木
痛いということですか?
大 野
はい、痛いです。
欧米人に比べて日本人の女性はサイズが小さいということもあるのですが、一方で、乳腺の密度が高いんです。したがって、痛みが強いので、受けるとしたら痛みが軽いとき。それが、生理が終わって1週間目ぐらいなので、その頃に受けると、痛みは少し少なくなります。
茂 木
先生ご自身は、マンモグラフィをお受けになったことはありますか?
大 野
私は受けたことはないのですが、日本でも男性の乳がんが毎年700人弱発生しています。そういう方々にはマンモグラフィを撮るのですが、乳腺が違いますので、女性のような痛みは感じないようですね。
茂 木
そうなのですね。
そして、これもよく話題になりますが、いわゆる「標準治療」ではなく、それ以外の色々な方法を探る患者さんもいらっしゃると思います。その辺りはどのようにご覧になっていますか?
大 野
基本的には、治療効果が少ない、もしくはないというものが多いので、本当は標準治療がいいですね。
ただ、患者さんたちも自分たちで探して何とかしたいという思いがあるので、そういうときは担当医と十分に相談してほしいと思います。
茂 木
担当医にも言わないで他のことを試すというのは良くないということですね。
大 野
そうですね。
茂 木
そこは人間としての信頼関係が大事になりますね。
大 野
はい。信頼関係は、実は一番大事で。信頼は、“信じて頼る”。患者さんは医師を信じて頼ると思うんです。そのために何が必要か、私は“コミュニケーション”だと思います。