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第295回 高野知樹さん

第295回 高野知樹さん

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住 吉
住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のテーマは、「メンタルヘルス」です。精神科医で神田東クリニックの院長、高野知樹先生をお迎えしました。おはようございます。
高 野
おはようございます。よろしくお願いします。
住 吉
高野先生は、クリニックで診療にあたるほか、産業医としても活動されています。日本精神科産業医協会の理事も務めていらっしゃいます。
そして、精神科医や産業医のレベルアップにも尽力されていて、厚生労働省のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」の委員長も務めていらっしゃいます。
今日は、精神科医として、また産業医として伺いたいのですが、まず、コロナ禍とメンタルヘルスの関係は、どのようにご覧になってきましたか?
高 野
患者さんがそれによって急増しているかというと不明なところもあるのですが、コロナ禍で生活の変化が大きかった方、特に若い方や働く女性の自殺者がこの数年少し増えているということも、何らかの関係があるのではないかと言われています。女性のみに、育児や家事、リモートワークの負担がかかっていることも関係しているのではないか、と考えています。
住 吉
メンタルヘルスに問題を抱えて、仕事を休んでいる方も多いのでしょうか?
高 野
そうですね。色々な統計がありますが、年々増えていて、現在働く方の約1.7%の方がメンタル疾患でお休みしているというデータもあります。少し前から比べるとどんどん増えているので、対応が必要な状況です。
住 吉
そして、お休みをしている方々だけが心配というわけではないそうですね?
高 野
そうですね。「プレゼンティズム」という考え方も問題になっています。
住 吉
プレゼンティズム?
高 野
はい。聞きなれないと思うのですが、病気でお休みされている状態のことを「アブセンティズム」と言います。一方で、「プレゼンティズム」というのは、働いてはいるのですが、健康上の問題が影響して、本来のパフォーマンスが発揮できていない、という状態です。特に最近、「健康経営」という言葉も少しずつ浸透してきていまして、このプレゼンティズムという考え方も大事ではないかという風になってきています。
住 吉
「休んでいる人が少ないから大丈夫」ではなく、「もしかしたらプレゼンティズムの方がいらっしゃるかもしれない」ということなのですね。
高 野
そうですね。
住 吉
メンタルの不調、うつや不安障害のとき、私たちには一体何が起こっているのでしょうか?
高 野
わからないこともまだたくさんあるのですが、脳の疲労の蓄積が回復せずに、いつもの脳機能が発揮できなくなっているために起きている、と考えられています。
脳は身体と同じで、疲労しても回復する能力を持っています。「ホメオスタシス」というのですが、例えば、最近色々なところに行くたびに体温をチェックしていますよね。外気温はすごく変わりますが、健康であれば体温はだいたい同じだと思います。そのように、メンタルのほうも本来は回復する力を持っています。
住 吉
そのホメオスタシスをうまく保つ、引き出すには、どうしたらいいのでしょうか?
高 野
僕がよく言っているのは、「くう・ねる・あそぶ」という3本の柱。「食べること」「寝ること」「遊ぶこと」、この3本がカメラの三脚のようにきちんと立っていると安定しているのですが、何かが少し欠けてくると、少しずつぐらついてくると思います。
住 吉
「食べる」「寝る」は当然だと思いますが、「遊ぶ」が入っていることが意外でした。
高 野
そうなんです。遊ぶと、脳が喜ぶという状況が起きて、脳の疲労している部分とは違う部分が活動して、その分疲労した部分が回復する、ということも起きていると思います。
住 吉
体調を崩しがちのときには、「きちんと食べているかな」「きちんと寝ているかな」とよく言いますが、「最近遊んでいるかな」ということも、自分のチェックリストに入れてもいいと。
高 野
ただ遊ぶだけではなく、以前は楽しかったことがあまり楽しく感じないなど、遊んでいても感じ方が変わってきている場合、もしかしたら「くう・ねる・あそぶ」の柱が弱っている可能性があるかなと思います。
住 吉
なるほど。
そして、「睡眠」は特に大事だということがわかってきているそうですね?
高 野
そうですね。特に、良い睡眠は大事なのですが、「パワーナップ(昼寝)」という言葉もあります。ただ、あまり昼寝の時間を取りすぎると、夜の睡眠が浅くなったり、短くなったりすることもあるので、コツがあって…。午後3時までの間に、長くても30分以内の昼寝をすると、脳の疲労は回復しますが夜の睡眠は邪魔しない、という効果があると言われています。
住 吉
では、お忙しくて夜になかなか眠れないという方は、パワーナップもうまく取り入れながら、自分の睡眠環境を保つ努力をしたほうがいいのですね。
高 野
そうですね。
住 吉
ただ、パワーナップを取りたくても仕事中だとなかなか取れない、という方もいると思います。
高 野
多くのサラリーマンは、昼休みが1時間ぐらいあると思いますので、食事した後の時間を利用していただくと良いかと思います。会社によっては、それをシステム化して、パワーナップする場所も設けています。実際に研究では、午後にパワーナップをすることで、事故が減ったり、ヒューマンエラーが減ったりしたというデータもありますので、そのように利用している会社もあります。
住 吉
そして、自分の心の不調に早めに気づくためには、どうしたらいいのでしょうか?
高 野
先ほどの「くう・ねる・あそぶ」が、いつも通りできていないかなと感じてもらうことが大事です。そこで自分の充電する力が弱っている可能性がありますので、そういう時間を少し確保するようにするか、逆にエネルギーを使うこと、しなければいけないことの負担を少し減らす方法はないか、というように対処することが必要なのかなと思います。