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第304回 村松弘康さん

第304回 村松弘康さん

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住 吉
住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のテーマは、「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」です。今日は、医師で中央内科クリニック院長の村松弘康先生にお話を伺います。よろしくお願いいたします。
村 松
よろしくお願いいたします。
住 吉
今日のキーワードは、「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」。これまでBlue Oceanでも何度か取り組んできたテーマです。
改めて、この「COPD」について教えてください。
村 松
「COPD」は、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)の英語の頭文字をとった言葉です。
日本では、「肺気腫」と言ったほうが馴染みがあるかなと思います。主に喫煙などで、タバコの煙などの有害物質を長期にわたって吸い込むことで、肺が壊されてしまう病気です。COPDの患者さんの約90~95%がタバコを吸っている方で、別名「タバコ病」とも呼ばれています。
タバコの煙の中の有害成分で肺や気管支が壊されてしまって、一度壊されてしまうとなかなか元には戻らず、ゆっくり進行していくんです。ですから、なかなか初期には気づきづらいという、困った病気の1つです。
住 吉
完全に治ることが難しいのですよね?
村 松
はい。肺や脳、心臓の細胞は、再生機能を持っていないんです。皮膚のように、擦りむいてもまた再生するような細胞ではないものですから、一度壊れてしまうと元に戻らないんです。ただ、進行を遅らせることはできますし、ある程度の修復はもちろん可能です。早い段階で発見して、吸入治療などをしますと、進行を防げることもありますので、まずは禁煙をしていただいて、そしてご相談いただければと思います。
住 吉
早い段階で気づくことが大事ということですね。
罹患者や予備軍が増えていると聞きました。COPDを疑うのは、どのようなときでしょうか?
村 松
風邪を引いてもいないのに、咳や痰が慢性的に出る、また、歩いたときの息切れ、こういった症状で気づかれることが多いかもしれません。40歳以上の喫煙者で、咳や痰が1~2か月ずっと続く場合には、ぜひご相談いただければと思います。
住 吉
今、予備軍の方はどのぐらいいらっしゃるのでしょうか?
村 松
530万人ぐらいはいると言われています。どうしてかと言いますと、かつて日本は専売公社としてタバコを売っていて、昭和40年頃の男性の喫煙率は8割以上だったんです。その方たちが今ご高齢になってきて、ちょうどCOPDを発症する年齢になっているんです。ですから、その方たちの人数として、予備軍がこのぐらいいるだろうと言われています。
住 吉
なるほど。
COPDになると、病気や死亡のリスクも高まるのでしょうか?
村 松
そうですね。COPDになった方は、慢性的にタバコの煙を吸っていましたので、COPD以外の病気を併発している可能性が非常に高いんです。ですから、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病…これら全て、タバコを吸っているとなりやすい病気で、こういった病気が隠れているのを見落としてしまうと、大変なことになってしまいます。
住 吉
そうすると、健康寿命にも影響が?
村 松
おっしゃる通りです。タバコは、日本人の5大死因、がん、脳卒中、心筋梗塞、それから老衰も。活性酸素を吸い込むことによって体が酸化していくので、早く老化するんです。そして、肺が壊されて、COPDから肺炎で亡くなる方が増えます。この5大死因全てを増やしてしまうだけではなく、日本人の4大寝たきり原因である、脳卒中、老衰、認知症…。実は、ニコチンによる血管収縮作用から、脳の血流が非常に落ちるので、認知症も増えることがわかっているんです。それから、ニコチンはエストロゲンという物質をブロックして、骨の吸収を促進してしまうので、タバコを吸うと骨粗鬆症が進むこともわかっています。これによって、骨折して寝たきり、ということが増えてしまうんです。ですから、この日本人の4大寝たきり原因も増やしてしまう、健康寿命を損なう、ということもわかっています。
住 吉
人生の後半を人間らしく生きるためにも、COPDの早期発見が重要になってきますね。
ここまで健康に影響があるとわかっていても、なかなか喫煙をやめられないという方が多いですが、これは“ニコチン依存”だからでしょうか?
村 松
そうですね。今、「ニコチン依存症」という病名にまでなってしまいましたが、ニコチンには、違法な薬物などと同じように、脳に依存を作ってしまうことが科学的にわかっているんです。簡単に言うと、「依存」というのは、その物質が体内にある状態で、体中がバランスを取ってしまった状態なんです。ニコチンというのは、交感神経を刺激したり、色々な作用を持っていて、ニコチンがある状態で交感神経がバランスを取ってしまうと、ニコチンが切れることでバランスが乱れるので、イライラしてしまいます。そこにまたニコチンを補充すれば落ち着くので、やめられなくなっている、という状態なんです。ですから、急にはやめられない。そこで、体の中にニコチンパッチからニコチンを入れたり、ニコチンの類似作用があるお薬を飲んだり、といった形で禁煙を進めるのが「禁煙外来」です。
住 吉
やめられないのは気のせいや意志ではなく、科学的、肉体的に理由があるのですね。
先生のクリニックでは、「禁煙外来」に力を入れていらっしゃるそうですが、どのような形で禁煙をアシストされているのでしょうか?
村 松
ニコチンの依存に対しては、今申し上げたような禁煙補助薬というものを使うのですが、実はタバコを吸う行為は、ニコチン依存だけではないんです。もう1つ、心理的、精神的な依存があります。それは、タバコを吸いに行くのが、ちょうどいい休憩、気分転換になるわけです。それから、息をふーっと吐き出す行為自体に、深呼吸効果、ため息効果という、心を落ち着ける作用があるんです。ですから、これも相まって、喫煙行為そのものに対する依存、という心理的な依存も生じてしまうんです。これを払拭するためには禁煙補助薬だけではダメで、そういったときにどのように対処するかなど、色々なアドバイスが必要になってきます。
住 吉
タバコを持たないでふーっとできたらいいのですが…。
村 松
おっしゃる通りです。ですから、その場で我慢するのではなく、少し席を離れて、お茶を飲んだり、ストレッチしたり、深呼吸したり、携帯電話を見て気分転換をしたり…ということをやっていただくと、吸わずに済むかもしれません。