第313回 岡田定さん
- 住 吉
- 住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のテーマは、「健康診断」です。お話を伺うのは、西崎クリニック院長の岡田定先生です。おはようございます。
- 岡 田
- おはようございます。よろしくお願いします。
- 住 吉
- 先生のご専門は、血液内科と予防医療。聖路加国際病院時代は人間ドック科で部長を務められ、まさに健康診断のプロフェッショナルでいらっしゃいます。
岡田先生が、「予防医療」や「健康診断」に重きを置かれるのはどうしてですか? - 岡 田
- 「病気になってから治療する」ということも大事なことですが、そもそも「病気にならないようにする」ということがもっと大事だと考えています。
体調が良いと、「自分は健康だ」と思われると思いますが、体調が良くても、実は病気の芽ができているということはよくあるんです。そういう病気の芽を早く見つけるのが「健康診断」です。
さらに、病気の芽はできていなくても、今の生活に問題がある場合、その生活を続ければ、将来、病気の芽を作るかもしれません。そういう病気の芽を作らないようにすることはもっと大事です。
病気になって治療を受けると、すぐに治療効果はわかると思いますが、予防医療の効果はなかなかすぐにはわかりません。ただ、3年、5年、10年…と時間が経っていくうちに、その効果がはっきりしてきます。
例えば、高血圧という病気は、血圧が高くてもあまり自覚症状がないんです。それで自分は健康だと思って放っておくと、動脈硬化が進んで、10年、20年経つと、脳梗塞、あるいは心筋梗塞になる、ということはよくあります。
未来の生活に困らないように、私たちは貯金をしますが、同じように、未来の健康や時間を失わないように、お金と時間を今投資して、病気の芽を見つけ、病気の芽を作らないようにする。それが「予防医療」ということだと思います。 - 住 吉
- 健康診断にはどのような項目があり、そこからどのようなことがわかるのでしょうか?
- 岡 田
- 健康診断には大きく3つあります。通常の健康診断、検診、人間ドックです。
まず、通常の「健康診断」は、内科の診察、身長や体重、血圧の測定、それから血液や尿、便の検査、さらに胸部X線検査や心電図検査をします。
「検診」は、がん検診が有名ですね。5種類のがんに対する検診ということで、例えば、肺がんに対しては胸部X線検査、乳がんの検査ならマンモグラフィ検査(乳房X線検査)、胃がんなら胃X線検査や胃カメラ。便に血が混じっているかどうかということもよく調べると思いますが、あれは大腸がんを見つけるための検査です。女性ですと、子宮頸がん検診で細胞診という検査もします。他には、歯科検診や眼科検診もあります。
「人間ドック」は、通常の健康診断やがん検診などを全て含め、さらに色々なオプション検査もつけられる、非常に詳しい検査です。 - 住 吉
- 3種類の健康診断がある中で、いずれにしてもすごく大事なことは、健康診断は受けっぱなしではダメだということなのですよね?
- 岡 田
- そうですね。健康診断を受けることで、精密検査や治療が必要だと指摘されることもあると思います。それを、受けっぱなしで放っておくというのは非常にもったいないです。放置したら、そもそも健診を受けた意味がなくなってしまいます。
具体的に言うと、例えば、便に血が混じっていた場合は、大腸がんかもしれません。そのときに思いきって大腸内視鏡検査を受けると、早期の段階で大腸がんが見つかります。そうすると内視鏡だけで治療できるので、大変ですがお得な検査だと思いますね。
女性の場合は特にそうですが、がんによる死亡原因のトップは大腸がんなんです。そのため、50代になられたら一度は検査を受けられるといいと思います。
もう一つ言うと、検査データを見ていくと、前回と今回とで段々悪くなっている場合があると思うんです。それもすごく大事で。例えば、HbA1cは糖尿病の検査でよく使われていて、1回の検査で、過去1~2か月の血糖の状態がわかります。その数値が5.9%ぐらいまでなら正常なのですが、6.5%を超えると糖尿病の可能性があります。
例えば、前回が5.9%で今回が6.3%だった場合、まだ糖尿病ではありません。「だから大丈夫だ」ということではなくて、「この勢いで悪くなるよ」ということです。 - 住 吉
- なるほど。悪い方向に向かっているということなのですね。
- 岡 田
- 向かっているんです。そうすると、何か食事の問題などがあるはずなので、「こういう機会に見直しましょう」と。
- 住 吉
- そういう行動の変化や、次の詳細な検査に繋げないと、健康診断を受けても意味がないということなのですね。
- 岡 田
- その通りです。
- 住 吉
- そして、健診結果は家族で共有することも大事だとか?
- 岡 田
- はい、これも大事なことで、家族で同じような健康問題を抱えている方がとても多いんです。遺伝する病気の一つに、「家族性高コレステロール血症」があります。これは、悪玉のLDLコレステロールがすごく高くなるんです。そうすると、家族も同じ問題を抱えているかもしれないので、家族のデータも一緒に見ます。
それから特に言いたいのは、肥満です。肥満は、実は周囲にうつるんですよ。 - 住 吉
- うつる!?
- 岡 田
- 肥満もうつると言われているんです。親しい友人でもそうですが、親しい家族が肥満になると、みんな肥満になっていきます。
- 住 吉
- どうしてですか?
- 岡 田
- 行動が似ているからでしょうね。病気は親から遺伝するようなイメージがありますが、それ以上に、親の生活習慣を見て、自分もそれを引き継いでしまうので病気になってしまう、ということが多いのではないかと思います。
- 住 吉
- なるほど。
生活習慣の見直しは、「わかっているけど難しい…」という方も多いと思うのですが、そういう方に先生がアドバイスするときは、具体的にどのように背中を押していらっしゃいますか? - 岡 田
- これは結構難しい問題で…。まず、「今の生活習慣を続けていると、未来にどういうことが起こりそうか」という未来図をきちんと描いてもらうということですね。
例えば、「タバコ」は一番の危険因子なのですが、「やめなさい」と言ってもやめる人はなかなかいないですよね。それで、タバコを吸う方に、「タバコにはどういう害があるか、知っていますか?」と聞くと、びっくりするぐらいご存じなくて、「肺がんになるかもしれない」という程度なんですよ。実際は、肺がんのリスクは4~5倍になりますし、他のあらゆるがんのリスクも増えますし、動脈硬化が進んで、心筋梗塞や脳梗塞になりやすいですし、さらに言うと、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの肺の病気にもなってしまいますし、色々なことが起こるんですよね。それをよくわかってもらうと、「これはまずい」ということで、やめようとされた方は何人もいましたね。ですから、「わかっているけどやめられない」というパターンも多いですが、「本当のことをわかっていないからやめられない」というパターンもあります。 - 住 吉
- 「やめたくないので聞かないふりをしている」ということもあるかもしれませんね。
- 岡 田
- そう、「見たくない」と。人は、人から言われて行動を変えるのがとても嫌なんですよね。誰でも、自分でその気にならないと行動しない。私が説明する、あるいは指導するときのパターンとしては、「医者は医療の専門家ですが、健診を受けた人はご自分の人生の専門家でもあるんです。だから、2人の専門家が共同作業で健診結果を見ながら、今の生活で何か変えられることはないですか?」と、“一緒に見つけていく”というスタンスが一番うまくいきそうですね。