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高血糖や糖尿病には、まずはウォーキング

高血糖や糖尿病には、まずはウォーキング

 内臓脂肪が蓄積し、これに高血圧や脂質異常、高血糖を重ねもつメタボリックシンドローム。その予防と解消には運動を習慣づけることが有効です。なかでも高血糖の人や糖尿病の人には、まずは、ウォーキング、さらにスロージョギング、スローステップ、スロー筋トレなどスローな動きがおすすめです。

運動は食事と共に高血糖対策の“車の両輪”

 メタボリックシンドロームの病態の一つである高血糖は、血液中にブドウ糖が増えすぎた状態で、それが長く続いているのが糖尿病です。つまり、血液中のブドウ糖の量を適正なレベルにまで下げることが糖尿病の予防・治療につながります。薬に頼る前の段階で血糖コントロールの柱になるのは食事ですが、それと並んで重要なのが運動です。この2つは高血糖対策では“車の両輪”に例えられます。
 食事でとった糖分はブドウ糖の形で血液に乗って全身を流れ、細胞に取り込まれて活動のエネルギー源になります。このとき、細胞の“ドア”を開けてブドウ糖を取り込ませる働きをするのが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンです。血液中にブドウ糖があふれる状態、つまり高血糖になるのは、インスリンの分泌が少なかったり、分泌していても働きが悪く、細胞へブドウ糖が取り込まれにくくなったときです。

運動でブドウ糖消費を続けているとインスリンの節約に

 高血糖対策で運動が重要視されるのは、血液中にブドウ糖が増えすぎないようにどんどん消費させるためです。筋肉の主たるエネルギー源はブドウ糖と遊離脂肪酸なので、運動で筋肉が使われてエネルギーが消費されると、それを補うために筋肉組織に血液中のブドウ糖が取り込まれます。運動はまた、筋肉を増やすのでブドウ糖を消費する場を広げることにもなります。
 さらに、運動をするとインスリンの働きが活性化されます。その結果、細胞はブドウ糖をどんどん取り込むようになるため血液中のブドウ糖が減り、同時にインスリンの節約につながるので膵臓の負担が軽くなります。運動によって体脂肪が減り、脂肪細胞サイズが小さくなると、アディポカインに変化が起き、高血糖を是正する方向に動きます。さらに、運動はインスリンとは別な経路で血糖値を改善するという報告もあり、適切な運動は糖尿病にとってよいことが多いのです。

まずは、スタスタ歩きを30分、週3回から

 以上のように、高血糖対策において運動の果たす役割は、大変に大きいものがあります。最も手軽に始められる運動は、ウォーキングです。
 スタスタと速歩(1分間に95~100メートル)で、血糖値が上がり始める食後30分~1時間の頃に30分以上続けることを目安に、週3回以上行うことが望ましいとされています。速歩で30分続けるのがきついときは、10分ずつ3回に分けて行っても効果は変わらないといわれています。
 実は、食前に運動した方がやせる、という報告もあり、特に間食をしたいな、と思ったら、まず少し動いてから食べた方が太りにくいようです。 慣れてきたら、スロージョギングにも挑戦してくだい。時速4~5km以下でニコニコとおしゃべりしながら走れるペースがスロージョギングです。ウォーキングの1.6倍消費エネルギーが大きいといわれています。
 また、20cm程度の高さの台をゆっくり昇り降りするスローステップもダイエットに効果があります。できれば、ウォーキングやスロージョギングの前に、スローステップのようなスロー筋トレを組み入れましょう。ゆっくり筋トレすることで、成長ホルモンが増えて筋肉が鍛えられ、体脂肪が分解され、燃えやすい遊離脂肪酸になります。この状態で有酸素運動を組み入れると脂肪が効率よく燃えてくれるのです。
 合併症のある方やインスリン使用者は担当医とよく相談して、効果的で無理のない運動をするようにしてください。

荒木 葉子 先生

監修者 荒木 葉子 先生 (産業医・内科医 荒木労働衛生コンサルタント事務所所長)
慶應義塾大学医学部卒業後、内科・血液内科専攻。カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学。報知新聞社産業医、NTT東日本東京健康管理センタ所長を経て、現在荒木労働衛生コンサルタント事務所所長。内科専門医・産業医・労働衛生コンサルタント。企業の労働衛生と半蔵門病院で内科診療を行う。主な著書に『臨床医が知っておきたい女性の診かたのエッセンス』(医学書院)、『働く女性たちのウェルネスブック』(慶應義塾大学出版会)など。