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質のよい睡眠で、メタボの予防と改善

質のよい睡眠で、メタボの予防と改善

 メタボリックシンドローム(メタボ)の予防・改善には、食事や運動習慣の見直しと改善が大原則。これに加えて大切なのが「睡眠」です。睡眠の質や量が十分でないとメタボの危険性が高まり、メタボになると十分に眠れず……といった悪循環を招くからです。これを断つには「気持ちいい」睡眠を得ること。そのポイントを紹介します。

睡眠時間が短くても長くても、メタボの危険が高まる

 私たちの健康を維持するために、「食事」「運動」「休養」の3つが大切である、ということはもう皆さん何回となく耳にしたことでしょう。このうち休養の基本になるのは、睡眠です。生き物にとって睡眠は最大の休養なのです。
 ところで、この睡眠がメタボリックシンドロームと深い関係にあることをご存じでしょうか。結論を先にご紹介すると、睡眠の質や量が十分でないとメタボの危険が高くなります。いくつかの研究でそのことが明らかにされています。
 米国の研究(32~59歳の約1万8,000人を対象)では、睡眠時間が7~9時間のグループに比べ、4時間のグループは73パーセントも肥満になりやすいという結果だったとか。睡眠時間が少ないと、食欲を抑えるホルモンよりも食欲を高めるホルモンの働きのほうが勝るためだそうです。
 わが国の研究でも、睡眠時間と糖尿病との関係を調べています。それによると、睡眠時間「6時間未満」、「6~8時間」、「9時間以上」のグループを比べると、「6時間未満」と「9時間以上」のグループで、血糖値の高い人の割合が高いことが示されています。睡眠時間が短くても長くても、血糖をコントロールするインスリンというホルモンの働きが低下するためとみられています。

睡眠リズムを整えて、質のよい睡眠をとる

 それでは、メタボに近づかないような睡眠とは、どのようなものでしょうか。十分な睡眠時間としてよくいわれるのは「8時間」です。しかしこれは、誰にでも当てはまるものではないようです。これより短くても健康を維持できる人もいれば、9時間、10時間と眠らないと調子が悪いという人もいるようで、要は「睡眠の時間」よりも、目覚めたときの熟睡感があるかないか、言い換えれば「睡眠の質」ということがポイントといえそうです。
 睡眠のリズムには体を休める「レム睡眠」と、脳を休める「ノンレム睡眠」の相があり、この2つの睡眠を、一晩のうちに一定の周期で繰り返すことがよい睡眠なのです。このためには以下のような3つのポイントを押さえるとよいでしょう。

(1)いつも決まった時刻に起床する……就寝の時刻が遅くなっても翌日には毎日同じ時刻に起きるようにすれば、乱れた体のリズムがリセットされ、いつもの時刻に眠気が訪れるようになります。

(2)起床後は太陽の光を浴びる……朝目覚めたときに、日光や強めの光を浴びると体内時計がリセットされ、睡眠を促すメラトニンというホルモンの分泌リズムが整い、そこから15~16時間後にメラトニンの分泌が始まり、脈拍・体温・血圧が低下し、体が夜の休息体制になって眠気が生じます。早寝早起きの習慣の第一歩は、早起きして朝の太陽を浴びることからです。

(3)就寝前に体温を少し上げておく……私たちの体は内部の体温を下げることで眠りに入っていきます。そこで、就寝の少し前に軽い運動や入浴をして体温を上げておくと、床に入ったときの体温低下が大きくなり、眠りやすくなります。

 心や体の不調のほとんどは、よい睡眠をとることで回復できるといわれます。メタボの予防・改善の第一歩を「睡眠」の見直しから始めてみてはいかがでしょうか。

荒木 葉子 先生

監修者 荒木 葉子 先生 (産業医・内科医 荒木労働衛生コンサルタント事務所所長)
慶應義塾大学医学部卒業後、内科・血液内科専攻。カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学。報知新聞社産業医、NTT東日本東京健康管理センタ所長を経て、現在荒木労働衛生コンサルタント事務所所長。内科専門医・産業医・労働衛生コンサルタント。企業の労働衛生と半蔵門病院で内科診療を行う。主な著書に『臨床医が知っておきたい女性の診かたのエッセンス』(医学書院)、『働く女性たちのウェルネスブック』(慶應義塾大学出版会)など。