文字サイズ

「美魔女」のはずが、まさかの「隠れ肥満」!? 中性脂肪の罠

「美魔女」のはずが、まさかの「隠れ肥満」!? 中性脂肪の罠

 やせ体型だからと油断して、高エネルギーの食事や運動不足などの不健康な生活を続けていると、中性脂肪が増え、内臓に脂肪をため込んだ「内臓脂肪型肥満」になってしまうことがあります。
 ここでは、Bさん(40代女性)の事例をもとに、中性脂肪が高い人が気をつけたいポイントを紹介します。

腹囲は基準値以内でも、中性脂肪が高いことがある

 若いころからスリムな体型を維持していて、今も40代後半に見えないと評判の女性、Bさん。独身の気楽さも手伝って、毎日のように友人や職場の仲間と外食したり、飲みに行ったりしています。肉料理や揚げ物、スイーツが大好きですが、ダイエットや健康を意識したことはなく、運動の習慣もありません。
 特定健康診査でも、いつも腹囲は基準値以内。Bさんは「生活習慣病なんて自分には関係ない」と思っていました。
 しかし、送られてきた検査結果を見ると、中性脂肪が保健指導判定値の150mg/dlをオーバーし、「脂質異常症」に。再検査を受けに行った医療機関で「隠れ肥満です」と言われてしまい、Bさんはショックを隠せません。

中性脂肪高めを放置すると、動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞を招く恐れも

 Bさんのように、肥満体型でない人でも、中性脂肪やコレステロールが高め(脂質異常症)であれば、肝臓などの見えないところに脂肪をため込んだ「内臓脂肪型肥満」といえます。
 中性脂肪は、コレステロールと並んで血液中に含まれる脂質の1つです。細胞や細胞膜、ホルモンなどの重要な材料になるため、体になくてはならない栄養素です。
とはいえ、食べ物から過剰なエネルギーを摂取していると、余ったエネルギーが中性脂肪となって体内に蓄積し、肥満や脂肪肝を引き起こします。さらに、善玉といわれるHDLコレステロールを減らし、逆に悪玉といわれるLDLコレステロールを増やして、動脈硬化を引き起こします。これを放置すると、心筋梗塞や脳梗塞を招き、最悪の場合は死に至ることもあるのです。
 中性脂肪が増える原因としては、油脂や糖質が多い食事や、過度の飲酒、運動不足などが挙げられます。また、早食いや大食いの人、睡眠時間が短い人や不規則な人、ストレスが多い人、太っている人、家族に脂質異常症の患者さんがいる人も、中性脂肪が増えやすいので要注意です。
 しかし、体を動かすエネルギー源である中性脂肪は、摂取エネルギーを減らして消費エネルギーを増やせば減っていきます。すでにたまった内臓脂肪も減らせることがわかっているので、次のようなポイントに気をつけて「隠れ肥満」を解消しましょう。

バランスのよい食事をとる

 「○○が体によい」と聞いてそればかり食べるのではなく、バランスのよい食事を適切な量とるようにしましょう。偏った食事でミネラルやビタミンが足りなくなると、そのために内臓脂肪がたまりやすくなることもあります。

生活のリズムに気をつけましょう

 人間の体には時計遺伝子というものがあります。朝より夜の食事は太りやすく、睡眠不足も肥満の原因になります。朝食抜きや夜更かしには気をつけましょう。

便秘にならないようにしましょう

 腸内細菌が肥満と関係することがわかってきました。便秘になると、よい腸内細菌が減ってしまいます。繊維分や水分をしっかりとる、オリゴ糖やビフィズス菌など腸の環境によい食事をとる、トイレをがまんしない、などに気をつけましょう。

肉よりも魚を多くとる

 動物性脂肪は中性脂肪を増やしますが、魚の油に含まれるEPAとDHAは、中性脂肪を減らす効果があります。青背の魚を中心に、1日80gから100g程度を目安に、積極的にとりましょう。

調理油にはオリーブ油やなたね油を使い、揚げ物は控える

 オレイン酸の多いオリーブ油やなたね油は中性脂肪を増やしにくいので、調理油にはこれらの油を使いましょう。ただし、脂質は高エネルギーなので、とり過ぎないようにしましょう。

糖質を控える

 糖質は中性脂肪を増やすため、甘い菓子類やジュースは控えましょう。ごはんやパン、めん類、果物などのとり過ぎにも注意が必要です。ただし、極端な糖質制限食は疲労や老化を進めます。

アルコールを控える

 アルコールのとり過ぎは中性脂肪を増やします。ビールなら中びん(500ml)1本、日本酒であれば1合、赤ワインならグラス2杯程度にとどめ、週に1日か2日は「休肝日」としましょう。

有酸素運動を行う

 有酸素運動は、中性脂肪を減らす効果があります。ウオーキングやジョギング、サイクリング、スイミングなど、体に負担がかからず、楽しんで続けられる運動を取り入れましょう。特に食後に動くのがおすすめです。

女性は特に、更年期が近づくと脂質異常症になりやすい

 女性の場合は、女性ホルモンがLDLコレステロール値を下げたり、動脈硬化を防ぐ働きをしているため、月経があるうちは脂質異常症になりにくくなっています。
 しかし、更年期にさしかかると女性ホルモンの分泌が減るため、これまでと同じ生活習慣を続けていると、中性脂肪やLDLコレステロールが増え、脂質異常症や動脈硬化のリスクが高まってしまうことがあります。
  BMI(体格指数:体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))が25以上の肥満の人はもちろん、25未満でも体脂肪率が高い人や、おなかがポッコリ出ている人、「最近太ってきたな」と感じた人などは、早めに生活習慣を見直しましょう。

荒木 葉子 先生

監修者 荒木 葉子 先生 (産業医・内科医 荒木労働衛生コンサルタント事務所所長)
慶應義塾大学医学部卒業後、内科・血液内科専攻。カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学。報知新聞社産業医、NTT東日本東京健康管理センタ所長を経て、現在荒木労働衛生コンサルタント事務所所長。内科専門医・産業医・労働衛生コンサルタント。企業の労働衛生と半蔵門病院で内科診療を行う。主な著書に『臨床医が知っておきたい女性の診かたのエッセンス』(医学書院)、『働く女性たちのウェルネスブック』(慶應義塾大学出版会)など。