肝機能の低下はアルコールのせいだけじゃない!?
肝機能の低下は飲酒のせいと思われがちですが、エネルギーのとりすぎや運動不足は脂肪肝の原因になります。脂肪肝を放置すると肝炎から肝硬変、肝がんなどに進行する恐れがありますが、肝機能はかなり低下するまで自覚症状がありません。 ここでは、Iさん(50代男性)の事例をもとに、肝機能の数値が悪化している人が気をつけたい生活習慣改善のポイントを紹介します。
お酒を控えているのに、肝機能の数値が改善しない
お酒も食べることも大好きな50代の男性Hさん。昨年のメタボ健診で肝機能の数値の悪化を指摘されてしまい、それ以来渋々ながらお酒は控えています。それにもかかわらず、今年の健診で肝機能の数値は改善していませんでした。
Hさんはここ数年体重が増えてきたのが気になっているものの、肝機能以外の検査項目に問題はありません。「体調はいいし、大好きなお酒も控えているのに…」と浮かない顔のHさんです。
肝機能の低下は自覚症状なし。健康診断で定期的なチェックを
肝臓は「アルコールや薬など、体に有害な物質の解毒」「食べ物から摂取した栄養素を体内で利用できる形に変えて貯蔵し、エネルギーを作り出す代謝」「脂肪の消化・吸収を助ける胆汁の生成・分泌」など、体にとって大変重要な働きをしています。
重要な臓器である肝臓には高い再生能力があるため、肝機能がかなり低下しないと自覚症状が現れず「沈黙の臓器」とも呼ばれるほどです。
肝機能の異常は主に血液検査によって調べられ、健康診断などで見つかる異常で多いのは、肝臓に余分な脂肪がたまる脂肪肝です。脂肪肝になっても自覚症状はありませんが、放置すると肝炎から肝硬変、肝がんなどに進行する恐れがあります。
脂肪肝は、お酒を飲みすぎる人はもちろんですが、お酒を全く飲まない人でも発症します。食べすぎや運動不足になりがちな人、肥満や糖尿病、脂質異常症がある人は、肝臓に脂肪がたまりやすくなります。最近はこのような「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」が増えています。
脂肪肝は生活習慣を改善すれば治りやすい
お酒は控えていても、ついつい食べすぎになってしまうHさんのような人や、初期の脂肪肝の人は、次のように生活習慣を改善すると、肝機能の改善につながります。
- エネルギーのとりすぎ、不飽和脂肪酸の摂取バランスに注意
脂肪肝になりやすい食事として、脂質、特に飽和脂肪酸のとりすぎと不飽和脂肪酸の偏り、また炭水化物、特に果糖のとりすぎが問題視されています。
飽和脂肪酸が多く含まれるのは、動物性の脂肪(ラードなど)です。ショートニングやマーガリンに含まれるトランス脂肪酸は動脈硬化を促進します。ただし、脂肪がすべていけないわけではなく、人間が自分で作ることができないものは必須脂肪酸といって、食事からとる必要があります。みなさんもオメガ3とかオメガ6などという名前を聞いたことがあるでしょう。
簡単に言えば、よい脂肪酸はオメガ3(エゴマ油、亜麻仁油、クルミ、青魚など)で、炎症やアレルギーを押さえ、メタボを防ぐとも言われています。逆に悪い脂肪酸はオメガ6(ベニバナ油、コーン油、サラダ油、マヨネーズなど)で、炎症やアレルギーを促進し、血栓を作りやすいと言われています。といっても両方とも必須脂肪酸なので、要するにオメガ6をとりすぎないようにし、オメガ3を積極的にとることが大事ということです。オメガ3は熱に弱いものが多く、酸化しやすいので取り扱いに注意が必要です。
また、果糖の多いものとして清涼飲料水があげられます。お酒を飲まない若年者で脂肪肝の方の中には、一日数本も清涼飲料水を飲む人がいます。
このような食事を続けているとNAFLDになり、さらに肝硬変になりやすいこともわかっています。
脂肪肝によいものとしては、ビタミンEがあげられています。薬物に関しては現在さまざまな研究が行われ、有力なものも出てきています。
- 有酸素運動で余分な脂肪を燃やそう
体重が増えてきたHさんにおすすめなのは、手軽に無理なくできるウオーキング。歩幅を大きめにとり、少し息が切れるくらいの速さで、1日20分を目安に行いましょう。まずは習慣にすることが大切です。
肝臓病の多くはウイルス性肝炎。一度は肝炎ウイルス検査を
ところで、日本人の肝臓病で最も多いのはウイルス性肝炎です。中でもC型肝炎とB型肝炎は、肝硬変や肝がんへと進行するリスクが高く、日本人の肝がんの約8割はC型・B型肝炎ウイルスが原因とされます。
しかし、B型・C型肝炎ウイルスの感染に気づいていない人も多いといわれています。感染の有無はどちらも血液検査だけで調べることができ、自治体などが無料検査を実施しています。一度は肝炎ウイルス検査も受けておきましょう。
【参考文献】
Singh S, et al. Comparative effectiveness of pharmacological interventions for nonalcoholic steatohepatitis: A systematic review and network meta‐analysis. Hepatology (2015).
Ferolla SM, et al. Dietary approach in the treatment of nonalcoholic fatty liver disease. World Journal of Hepatology 7.24 (2015): 2522.
Asrih M, et al. Diets and nonalcoholic fatty liver disease: the good and the bad. Clinical Nutrition 33.2 (2014): 186-190.