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メタボを招く生活習慣は認知症も招く、ってホント?

メタボを招く生活習慣は認知症も招く、ってホント?

本当です。
メタボリック・シンドローム(以下メタボ)とは、内臓周辺に脂肪がたまる内臓脂肪型肥満に加え、高血圧、高血糖、脂質異常症のどれか2つ以上が見られる状態。これら4つの症状は、どれも認知症に結びつきやすいことが国内外の研究で明らかになっています。不健康な食生活や運動不足、習慣的な喫煙、過剰なストレスなど、メタボに直結するような生活習慣は認知症への危ない近道でもあるのです。

高血圧や糖尿病は認知症の危険因子。複数重なるとより危険度が高い

認知症は大きく分けて2つのタイプがあります。1つは脳内の血管に障害が起こることで発症する脳血管障害型の認知症と、もう1つは脳細胞が萎縮することで発症するいわゆるアルツハイマー型の認知症です。

2つの認知症のうち、脳血管障害型の認知症と関係が深いとされているのは高血圧です。福岡県・久山町の住民を対象にした大規模な調査では、中年期と老年期の高血圧が脳血管障害型認知症の危険因子であると報告されています。脳血管障害型認知症を発症する確率を、正常血圧者(120mmHg以下/80mmHg以下)を1.0とすると、高血圧が重症化するにしたがって中年期では4.5~5.6倍、老年期は6.0~10.1倍も発症しやすくなる、という結果が出ています(Ninomiya T, et. al. Hypertension 58: 22, 2011)。

2つのタイプの認知症に対して、ともに危険度が高いとされているのは糖尿病。海外での大規模な調査からの報告があるほか、日本糖尿病学会による『糖尿病治療ガイド2012-2013』では認知症が糖尿病の8番目の慢性合併症に加えられ、高齢糖尿病患者の認知症リスクは2つの認知症ともに糖尿病でない人の2~4倍と記されています。

内臓脂肪型肥満や脂質異常症についても、アメリカやスウェーデンの研究で認知症になる危険度が正常な人より数倍高いことが報告され、さらにいくつかメタボの危険因子が重なれば、認知症の危険度はより高くなることも明らかになっています。

メタボ予防は認知症予防にも

こうして見てくると、メタボの予防は認知症の予防にもなることは明らか。そのために重要なのは食生活の見直しと運動の習慣化でしょう。

肉好きの一方、魚や野菜が嫌いという食事傾向だと認知症になりやすい、という指摘があります。肉は良質のたんぱく源として重要で、たんぱく質の不足は認知機能の低下に結びつきます。とはいえ、たんぱく質は肉だけでなく魚からも摂りたいもの。なかでもさば、いわし、さんまなど青背の魚には認知症の発症を抑えるとされる不飽和脂肪酸も豊富に含まれています。

ビタミン類の豊富な野菜の摂取も大切。特に緑黄色野菜に豊富な抗酸化成分は、活性酸素による神経細胞膜へのダメージを減らすといわれています。

糖質の摂り過ぎにも注意が必要。糖質過多で血糖値が上がり過ぎると、アルツハイマー型認知症を引き起こすとされる老廃物が脳内に蓄積しやすくなります。糖質の多いごはん、パン、めん類、甘いお菓子などを食べ過ぎないようにしましょう。

また、脳ではブドウ糖がエネルギー源として利用されますが、この働きが加齢によって低下することがわかってきました。一方、ブドウ糖に代わるエネルギー源として、体内で主に脂肪酸から作られるケトン体という物質を利用することができます。

このケトン体の生成に、乳製品などに含まれる中鎖脂肪酸が有効であることが注目されています。比較的短時間でケトン体を生成するので、認知機能の改善効果が期待されています。

荒木 葉子 先生

監修者 荒木 葉子 先生 (産業医・内科医 荒木労働衛生コンサルタント事務所所長)
慶應義塾大学医学部卒業後、内科・血液内科専攻。カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学。報知新聞社産業医、NTT東日本東京健康管理センタ所長を経て、現在荒木労働衛生コンサルタント事務所所長。内科専門医・産業医・労働衛生コンサルタント。企業の労働衛生と半蔵門病院で内科診療を行う。主な著書に『臨床医が知っておきたい女性の診かたのエッセンス』(医学書院)、『働く女性たちのウェルネスブック』(慶應義塾大学出版会)など。