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高齢者はメタボ予防よりも低栄養にご用心

高齢者はメタボ予防よりも低栄養にご用心

働き盛り世代は、メタボ(メタボリックシンドローム)を警戒して栄養のとりすぎに注意しなければなりませんが、高齢者はむしろ「低栄養」に用心する必要があります。加齢とともに心身の機能が低下し、放置すると要介護状態に進む「フレイル」は、低栄養が大きな要因だからです。65歳を過ぎたら、栄養をしっかりとることに気を配りましょう。

「要介護状態」の一歩手前がフレイル

フレイルは、年を取って心身の働きが低下し、社会的なつながりも弱くなってしまった状態のこと。英語の「Frailty(虚弱)」の日本語訳で、日本老年医学会が提唱した概念です。「要介護状態」に至る前段階として位置づけられ、放っておくと介護が必要な状態に進んでしまう可能性があります。

このフレイルに陥る大きな要因とされているのが低栄養で、65歳以上の高齢者に多いという報告があります。低栄養だと筋肉量が減少して、身体機能が落ちてしまう「サルコペニア」という状態を招きます。サルコペニアになると活動量が落ちて食欲は低下、食事の摂取量も少なくなります。外出や人と会うことがおっくうになり、社会的なつながりも少なくなってフレイルに陥ってしまうのです。

メタボよりもやせすぎに注意

高齢期になったら、それまでのメタボ対策から低栄養・フレイル対策に注意を向ける必要があります。厚生労働省の「食事摂取基準」(2020年版)では、高齢者が目標とすべきBMI(体格指数=体重【kg】÷身長【m】÷身長【m】)が「65~74歳:21.5~24.9」へと従前のものよりも下限が引き上げられました(旧基準【2015年版】50~69歳:20.0~24.9)。高齢者が低栄養のために“やせすぎ”にならないように注意を促すためです。

自分がやせすぎかどうかをチェックする簡単な方法があります。「指輪っかテスト」というものです。両手の親指と人差し指で輪をつくり、利き脚ではないほうのふくらはぎの最も太い部分を囲みます。このとき、ふくらはぎと指輪っかの間にすき間があるようだと、筋肉量が減って筋力が低下している可能性があります。

さらに、「ものをおいしく食べられない」「体重が前よりも減った」「疲れやすく何をするのもおっくうだ」というような傾向があったら、フレイルに陥っているかもしれません。

板倉 弘重 先生

監修者 板倉 弘重 先生 東京大学大学院医学研究科卒。同大学第三内科、国立健康・栄養研究所臨床栄養部長、ブラジル リオグランデヂス-ルカソリック大学客員教授、茨城キリスト教大学生活科学部食物健康科学科教授等を経て現職。日本臨床栄養学会理事長、日本栄養改善学会理事、日本栄養・食糧学会副会長、日本動脈硬化学会評議員名誉会員、日本病態栄養学会理事、第33回日本動脈硬化学会総会会長などを歴任。