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うつ病が疑われる人に「がんばって」は禁句?

うつ病が疑われる人に「がんばって」は禁句?

うつ病の人やうつ傾向にある人に対して、「がんばって」と励ましてはいけない、とよく言われます。だからといって、「がんばらなくていい」と伝えると、相手によっては否定されたように感じてしまい、逆効果になるケースも。心の不調には、場合によっては適度な励ましも必要となります。

心に不調を抱えた人を励ましてはいけない?

「うつ病の人に『がんばって』と言ってはいけない」とは、よく聞く言葉です。
ストレスを受けやすい人、うつ病になりやすい人には「まじめながんばり屋」タイプが多く、本人は「がんばらなきゃいけない」「がんばりたい」と思っているのに「がんばれない」。そのため、「がんばれ」と励ますと、相手は一層心を重くしてしまうというのは、一般的なうつ病(定型うつ病)のタイプの人には確かにあることです。
しかし、心の不調を抱えた人には一様に「がんばらなくていい」と休ませてあげるのが効果的かというと、必ずしもそうではありません。なかには、「がんばらなくていい」「完全に治るまで休んでいい」と言われるとラッキーと思い、休職中に海外旅行をエンジョイする人もいて、職場を悩ませているタイプの人がいます。
これは、20代から30代の比較的若い世代に多い、「新型うつ病」「現代型うつ病」などと呼ばれる、「抑うつ気分を伴う適応障害」の人にみられます。

少し背中を押してあげることが効果的な場合もある

適応障害の人は、気分にむらがあり、職場を離れると元気になったり、プライベートや趣味には意欲を見せたりすることがあります。依存的な面や、「相手が悪い」と責める他罰的な面が目立つという特徴もあります。
このようなタイプの人は、周りから認められたいという欲求や自意識が強いため、「もうがんばれない」という気持ちの裏に、「こんなにがんばっている私をわかってくれない」という思いがあります。
そのため、がんばっている姿を認めたうえで、「もうちょっとがんばってみましょう」と軽く励ましたり、途中までフォローしてあげるなど、少し背中を押してあげるとやる気が出ることが多くなります。少しの励ましが効果的な場合もあるのです。

「がんばりすぎないようにがんばって」と伝えるのがおすすめ

とはいえ、相手はどちらの声かけが効果的なタイプなのか、判断が難しいことはあるでしょう。また、適応障害の人は「なまけている」「わがまま」と思われがちですが、抑うつ状態にあることは、うつ病の人と同様ですので、きつく叱咤激励するだけでは解決しません。
そこでおすすめしたいのが、「がんばりすぎないようにがんばって」と声をかけること。ハードルの高い挑戦をさせることは避けたほうがよいですが、「無理をしない程度にがんばって」と伝えることは、悪いことではありません。
がんばりを見守っていることを伝え、相手ががんばれたときには、「よくがんばったね」とほめてあげることも大切です。

山本 晴義 先生

監修者 山本 晴義 先生 1972年東北大学医学部卒業、1991年横浜労災病院心療内科部長、2001年より横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長。日本心療内科学会監事・専門医、日本産業ストレス学会理事、日本産業精神保健学会評議員、日本心身医学会評議員、日本職業災害医学会評議員。厚生労働省ポータルサイト「こころの耳」委員。著書は『ストレス一日決算主義』(NHK出版)、『初任者・職場管理者のためのメンタルヘルス対策の本』(労務行政)、『ビジネスマンの心の病気がわかる本』(講談社)、『ストレス教室』『働く人のメンタルヘルス教室』『メンタルサポート教室』(新興医学出版社)、『ドクター山本のメール相談事例集』(労働調査会)、『図解 やさしくわかる うつ病からの職場復帰』(ナツメ社)など多数。また、DVD『Dr.山本晴義の実戦!心療内科』(全2巻、ケアネット)、『元気な職場をつくるメンタルヘルス』(全12巻、アスパクリエイト)、CD『予防のための音楽「うつ」』(デラ)なども監修している。