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世代別、心にも効く「質のよい睡眠」のポイント

世代別、心にも効く「質のよい睡眠」のポイント

適切な量の良質な睡眠をとることは、体だけでなく心の健康を維持するためにも必要不可欠です。世代ごとのライフスタイルや特徴に合わせ、科学的根拠に基づいて策定された指針を参考に、睡眠の質を向上させましょう。

最新の科学的根拠に基づいた「健康づくりのための睡眠指針」

わが国では、2003年に厚生労働省が「健康づくりのための睡眠指針~快適な睡眠のための7箇条~」を策定していますが、2014年に「健康づくりのための睡眠指針2014~睡眠12箇条~」として11年ぶりに改定されました。
この改定では、科学的根拠に基づいた指針とすることや、若年世代・勤労世代・熟年世代というライフステージ・ライフスタイル別の項目を記載すること、生活習慣病や心の健康に関する記載を充実することを柱とし、次のような12箇条を策定しています。

【健康づくりのための睡眠指針2014 ~睡眠12箇条~】

第1条    良い睡眠で、からだもこころも健康に。
第2条    適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを。
第3条    良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。
第4条    睡眠による休養感は、こころの健康に重要です。
第5条    年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を。
第6条    良い睡眠のためには、環境づくりも重要です。
第7条    若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。
第8条    勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。
第9条    熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。
第10条  眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない。
第11条  いつもと違う睡眠には、要注意。
第12条  眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を。

厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014
より作成

年齢やライフスタイルに応じた、適切な睡眠習慣をもとう

第1条から第6条および第10条以降については、この連載などでもたびたび取り上げている内容ですので([関連記事]参照 )、ここでは、新たに加わった第7条から第9条のライフステージ別の指針について、詳しくみていきましょう。

「第7条 若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。」

思春期になると、睡眠の時間帯が遅くなりがちです。夜更かしが頻繁に行われると、体内時計(「コラム 体内時計の乱れを整えよう」参照 )のズレを招き、さらなる睡眠の不規則や夜型化につながり、 悪循環に。寝床に入ってからの携帯電話・スマートフォン、ゲーム機の使用も、入眠に支障をきたし、夜間覚醒を助長するので注意が必要です。
また、若年世代では休日の起床時間が平日よりも2、3時間ほど遅くなることが世界的に示されています。これは平日の睡眠不足を解消できる側面もありますが、体内時計のリズムを乱し、登校日の朝の覚醒・起床困難につながります。特に夏休みなどの長期休暇後は注意しましょう。

「第8条 勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。」

勤労世代では必要な睡眠時間が確保しにくいことが多くなります。しかし、睡眠不足は生産性を下げるだけでなく、事故やヒューマンエラーの危険性を高めるので、十分な睡眠時間確保が必要です。
必要な睡眠時間は個人によっても年齢によっても異なるため、日中の眠気の程度に注意して、自分の睡眠時間が足りているかどうかを確認するようにしましょう。
なお、休日の「寝だめ」では睡眠不足による能率低下を補いにくく、また、体内時計の乱れを招きます。疲労回復のためには、毎日必要な睡眠時間を確保しましょう。
勤務形態や生活上の都合で夜間の睡眠時間確保が難しいとき、眠気による作業能率の低下を改善するには昼寝が役立ちます。午後の早い時刻に、30分以内の短い昼寝をとるのがよいでしょう。

「第9条 熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。」

高齢になると必要な睡眠時間が短くなり、例えば65歳では、20歳代よりも約1時間短くなると考えられています。
寝床で過ごす時間が長すぎるとかえって睡眠が浅くなり、夜中に目覚めやすくなるので、年齢相応の適切な睡眠時間を目標として、就寝と起床の時刻を見直しましょう。日中しっかり目覚めていれば、適切な睡眠時間を得られているといえます。
また、日中に長時間眠ることは避け、適度な運動を行って、睡眠と覚醒のリズムにメリハリをつけましょう。運動は、加齢により低下する日常生活動作(ADL)の向上や、生活習慣病の予防にも役立ちます(ただし、過度の運動は睡眠の妨げやけがの発生につながりかねないので、無理をしない程度の軽い運動から始めましょう)。

不眠症状はうつ病の症状として現れることがあり、また、不眠の症状がある人はうつ病にかかりやすいこともわかっています。うつ病に限らず、睡眠時間の不足や不眠症状などは日中の集中力・注意力の低下を招き、体の不調や意欲の低下につながります。
第7条から第9条のポイントに気をつけても改善しなかったり、自分だけでは改善できないと感じたときは、医師や保健師、薬剤師などの身近な専門家に相談しましょう。

山本 晴義 先生

監修者 山本 晴義 先生 1972年東北大学医学部卒業、1991年横浜労災病院心療内科部長、2001年より横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長。日本心療内科学会監事・専門医、日本産業ストレス学会理事、日本産業精神保健学会評議員、日本心身医学会評議員、日本職業災害医学会評議員。厚生労働省ポータルサイト「こころの耳」委員。著書は『ストレス一日決算主義』(NHK出版)、『初任者・職場管理者のためのメンタルヘルス対策の本』(労務行政)、『ビジネスマンの心の病気がわかる本』(講談社)、『ストレス教室』『働く人のメンタルヘルス教室』『メンタルサポート教室』(新興医学出版社)、『ドクター山本のメール相談事例集』(労働調査会)、『図解 やさしくわかる うつ病からの職場復帰』(ナツメ社)など多数。また、DVD『Dr.山本晴義の実戦!心療内科』(全2巻、ケアネット)、『元気な職場をつくるメンタルヘルス』(全12巻、アスパクリエイト)、CD『予防のための音楽「うつ」』(デラ)なども監修している。