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「定年が近づく、無趣味の夫。うつ病になるのではないかと心配です」

「定年が近づく、無趣味の夫。うつ病になるのではないかと心配です」

Q.60代女性です。夫はあと数年で定年で、「定年後は再就職せず、ゆっくりしたい」と言っています。しかし、子どもも巣立っており、無趣味の夫が家にいても何もやることはないのです。うつ病になるのではないかと心配です。

A.仕事一筋の男性は、定年後にうつ状態になることがあります。定年前の今から、仕事以外にも意識が向くようにサポートを。また、心身の変化に早めに気づくようにしましょう。

心に生まれた「ぽっかり感」が長引くと、うつ症状が起こりやすい

相談者さんの夫は、日々仕事に打ち込み、家族のために必死に働いているように見受けられます。定年後はゆっくり過ごすことだけを楽しみにしていても、無理はありません。

とはいえ、あなたが危惧するとおり、何か大きなことをやり終えたときに「ぽっかり感」が生まれるのも避けがたいものです。今まで一つのことに打ち込んできた人ほど、終わると「ぽっかり感」を味わいます。受験を終えた学生であっても、介護や子育てを終えた主婦であっても同じです。そして「自分は社会に必要とされていないのでは」と感じるようになり、淋しさや虚しさを抱えてうつ状態になってしまう人も多いのが実情です。

そのため、周囲も本人も「ぽっかり感」がやってくることを覚悟しておき、いざやってきたら、できるだけ長引かせないようにしましょう。万が一長引いてうつ症状が現れてしまったら、周囲が早めに気づき、適切に対処することも大切です。

家庭内での役割や新たな趣味、目標が持てるようにサポートを

さて、「ぽっかり感」を長引かせないようにするため、夫の最大のサポーターであるあなたに、今お願いしたいことがあります。それは、あらかじめ夫の意識を、仕事以外のさまざまな矛先に向けておくこと。難しいと感じるかもしれませんが、定年まで時間のある今がチャンスなのです。

例えば、「休日に1食だけ食事を作る」「洗濯物を干す」「アイロンがけ」など、比較的簡単にできる家事を頼んでみましょう。案外、得意で自信がもてたり、やってみると面白くなることがあるかもしれません。やる気が出てきたら、少しずつ役割を増やしていくのもよいでしょう。

また、夫の興味を引きそうなスポーツクラブやカルチャースクール、地域の講習会などがあれば紹介してみましょう。それらに妻自身が通っているのであれば、「あなたくらいの年齢の男性も多い」の一言を添えるのも忘れずに。

夫婦で定年後に何をしたいかについて話し合い、「海外旅行へ行きたい」「富士山に登りたい」といった具体的な目標を立てると、それに向けて「英会話を習おう」「アルバイトでお金を貯めよう」「体力をつけよう」などのように、やりたいこと、やるべきことも見つかるかもしれません。

一緒に何かをやるというよりも、夫が自分のペースで、一人でできることのほうがよいでしょう。なお、夫に頼んだことや夫が始めたことに対して、妻から細かく口を出したり“ダメ出し”したりせず、できるだけ見守って任せるのがポイントです。

夫が妻のアドバイスに耳を傾けないようであれば、子どもからさりげなく声をかけてもらう、共通の友人などに「最近○○始めたんだ」「△△が流行っているらしいよ」と話してもらうなど、第三者に協力してもらうとよいでしょう。

万が一うつ症状が出たら、家族が早めに気づいて対処を

上記の予防に取り組んでも、退職前後などに下記のような変化が見られたら、まずは夫に声をかけ、積極的に話を聞くようにしましょう。話したがらないようなら、専門の相談機関に相談してみるのもよいでしょう。

下記のような変化が複数現れている場合や、症状が増えていくような場合は、心療内科や精神科などの心の専門家の受診を検討しましょう。なお、※の項目に1つでも当てはまる場合は、できるだけ早く受診したほうがよいでしょう。

【家族で気づいてほしい心身の変化】

  • 笑顔や会話が減った
  • 食欲がなさそう、食事を残す、食事がなかなか進まない
  • 体の不調を訴える
  • ぼんやりしていることや、溜息をつくことが多い
  • 怒りっぽい、何かにつけてくどくど言う、変に頑固になった
  • もの忘れが激しくなった
  • 金遣いが荒くなった
  • 悪酔いするようになった
  • 隠れて飲酒している/酒量が増え、朝から飲酒している ※
  • 監視されている、神のお告げがあったなど、妙なことを口走る ※
  • 自殺をほのめかすことがある ※
  • 理由もなくキレて、人に危害を加えることがある ※
 

山本 晴義 先生

監修者 山本 晴義 先生 (医学博士 横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長
神奈川産業保健総合支援センター相談員 埼玉学園大学大学院客員教授)
1972年東北大学医学部卒業、1991年横浜労災病院心療内科部長、2001年より横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長。日本心療内科学会監事・専門医、日本産業ストレス学会理事、日本産業精神保健学会評議員、日本心身医学会評議員、日本職業災害医学会評議員。厚生労働省ポータルサイト「こころの耳」委員。著書は『ストレス一日決算主義』(NHK出版)、『初任者・職場管理者のためのメンタルヘルス対策の本』(労務行政)、『ビジネスマンの心の病気がわかる本』(講談社)、『ストレス教室』『働く人のメンタルヘルス教室』『メンタルサポート教室』(新興医学出版社)、『ドクター山本のメール相談事例集』(労働調査会)、『図解 やさしくわかる うつ病からの職場復帰』(ナツメ社)など多数。また、DVD『Dr.山本晴義の実戦!心療内科』(全2巻、ケアネット)、『元気な職場をつくるメンタルヘルス』(全12巻、アスパクリエイト)、CD『予防のための音楽「うつ」』(デラ)なども監修している。