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「うつ病かもしれない部下に、適した言葉かけを教えてください」

「うつ病かもしれない部下に、適した言葉かけを教えてください」

Q.40代男性です。最近、部下の遅刻や仕事のミスが目立つようになり、注意をしても萎縮するばかりで覇気がありません。うつ病かもしれず、話を聞きたいのですが、どのような言葉かけが適切でしょうか。

A.原因を突き止めたり、本人を追い詰めたりするような言葉は避け、気持ちを受け止めるつもりで話を聴きましょう。否定したり、アドバイスをしたり、無理に結論を出させないことも大切です。

早めにじっくり話を聴くのは大切だが、本人を追い詰めないように注意が必要

相談者さんの部下の「これまでと違う」行動が増えたのは最近のことだそうですが、プライベートで何か気がかりなことがあって仕事に身が入らないのか、仕事上で何かストレスを抱えているのか、またそれが一時的なものなのか、現時点ではわかりません。

いずれにしても、こじらせるとうつ病などの心の病気に発展することがあるので、部下の変化に早めに気づいたことはとてもよかったと思います。ただし、心配するあまり、もしくは早くよくなってほしいあまりに無理に原因を追求しようとしたり、過度に励まそうとしたりすると、本人を追い詰めてしまいます。「何か困っているなら話を聴くよ」「力になるから」といった声をかけて、一対一でじっくり話を聴くようにしましょう。

また、そういうときに酒の席に誘ってしまいがちですが、重要な話を聞く場合には不適切でしょう。また、本人のプライベートにかかわる問題や、職場で話しにくい話題かもしれないので、できれば個室など、ほかの人に話を聞かれる心配のない場所で聴くことをおすすめします。

問い詰める、否定する、押し付ける、アドバイスする、結論を出す…などはNG!

うつ状態が疑われる人に対する接し方で大切なのは、「問い詰めたり責めたりしない」「否定しない」「こちらの気持ちを押し付けない」「アドバイスしない」「無理に判断を迫ったり、結論を出させない」こと。心配している気持ちを伝え、相手の気持ちに寄り添い、共感して聴きましょう。下表に、一般的に悪い言葉かけとよい言葉かけをまとめたので参考にしてください。

【一般的に悪い言葉かけとよい言葉かけの例】
✕NGワード
上司が言ってしまいがちな、悪い言葉かけの例
「そんなことでどうするんだ」「なんでこうなってしまうんだ」「気にしすぎなんだよ」「もっと前向きにとらえないと」「みんな大変なんだ」「また何かミスをされたらこっちが困るからな」「自分の立場をわかっていないんじゃないのか」「みんなに迷惑かけたぶん、もっとがんばらないと」「がんばれ、やればできる」「できないっていうのは言い訳だ」「どうすればいいのか考えてみて」
○OKワード
上司におすすめの、よい言葉かけの例
「疲れがたまっているんじゃないか?」「何か困っているんじゃないか?」「つらかったんだな」「大変だったな」「私にできることがあったら遠慮なく言ってほしい」「できるかぎりサポートするから大丈夫」「無理せず、いつでも声をかけて」「今はゆっくり休んでいいから」

なお、相手の状態はどうあれ、部下(あるいは家族などでも、立場が下の相手)に対していつも言ってしまっているNGワードに類する言葉があれば、改めましょう。ストレスを抱えている相手にとっては、さらなるストレスになっている可能性があります。

また、心が弱っている人は、判断力が鈍っていたり将来を悲観してしまいがちなので、「仕事を辞めたい」などのように極端な考えを口にすることがあります。しかし、回復すると考え方が変わり、後悔することもあるため、「今はゆっくり休もう」と決断を先延ばしさせたほうがよいでしょう。「辞めるなんて考えちゃダメだ」「仕事は続けたほうがよい」などのように否定しないように注意しましょう。

山本 晴義 先生

監修者 山本 晴義 先生 (医学博士 横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長
神奈川産業保健総合支援センター相談員 埼玉学園大学大学院客員教授)
1972年東北大学医学部卒業、1991年横浜労災病院心療内科部長、2001年より横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長。日本心療内科学会監事・専門医、日本産業ストレス学会理事、日本産業精神保健学会評議員、日本心身医学会評議員、日本職業災害医学会評議員。厚生労働省ポータルサイト「こころの耳」委員。著書は『ストレス一日決算主義』(NHK出版)、『初任者・職場管理者のためのメンタルヘルス対策の本』(労務行政)、『ビジネスマンの心の病気がわかる本』(講談社)、『ストレス教室』『働く人のメンタルヘルス教室』『メンタルサポート教室』(新興医学出版社)、『ドクター山本のメール相談事例集』(労働調査会)、『図解 やさしくわかる うつ病からの職場復帰』(ナツメ社)など多数。また、DVD『Dr.山本晴義の実戦!心療内科』(全2巻、ケアネット)、『元気な職場をつくるメンタルヘルス』(全12巻、アスパクリエイト)、CD『予防のための音楽「うつ」』(デラ)なども監修している。