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飲酒とがん

飲酒とがん

  少量の飲酒は健康によい効果をもたらすこともありますが、飲み過ぎが続くと、多くのがんの発生リスクを高めることがわかっています。特に飲酒習慣に喫煙習慣が加わると、発がんリスクはさらに高まります。お酒を健康的に飲むには、たばこを吸わず受動喫煙も避けて、適量をわきまえることが大切です。

百薬の長も、飲み過ぎが続けば、何らかのがんの発生率を高める

 古くから「酒は百薬の長」といわれています。少量の飲酒は食欲増進やストレス解消、血行促進などに役立ちますが、大量飲酒が続けば、肝臓・膵臓・胃腸などの病気のほか、アルコール依存症といった精神の病気をもまねくデメリットもあります。
 大量飲酒の習慣は、がんの発生のリスクを高めることもわかっています。国立がん研究センターの研究班による多目的コホート研究では、40~59歳までの男女7万3000人を対象に飲酒習慣について調べ、1990年から2001年まで追跡調査し、がんの発生との関連を分析しました。
 追跡調査の期間に3500人が、何らかのがんになりました。男性のがん発生率については、「飲酒量が1日当たり日本酒に換算して2合未満の人は、ときどき飲酒する人(週に1日未満))に比べて統計学的有意差はない」、「飲酒量が1日当たり2合以上3合未満では、がんの発生率が1.4倍、3合以上では1.6倍であった」ことがわかりました。女性については、飲酒習慣のある人自体が男性のように多くなかったので、明確な傾向はみられませんでした。

飲酒習慣に喫煙習慣が加わると、がん発生率が上昇

 また、この追跡調査では、飲酒習慣に加えて喫煙習慣もあるかどうかで、がんの発生傾向を分析しました。すると喫煙習慣のない人は飲酒量が増えても、がんの発生率が必ずしも高くなるとは限りませんでした。はっきりわかったのは、喫煙習慣のある人は飲酒量が増えるほどに、がんの発生率が高くなることです。具体的には、ときどき飲む人に比べ、「1日2合以上3合未満を飲む人は1.9倍」、「3合以上を飲む人は2.3倍」も、がんの発生率が高くなっていました。
 お酒に含まれているエタノールは、体内のいろいろな酵素の働きでアセドアルデヒド(悪酔いの原因物質)に分解されます。その際に活発になったいずれかの酵素が、たばこの中に含まれる発がん物質も活性化させてしまうのではないか、そのために飲酒習慣に喫煙習慣が加わると、がんの発生率が高くなるのではないかと考えられています。受動喫煙状態でお酒を飲んでも、同様に発がん物質を活性化すると考えられます。

がんを予防するには、飲酒は1日1合までに

 WHO(世界保健機関)、WCRF(世界がん研究基金)、AICR(米国がん研究財団)などの研究をみると、がん全体のうち、特に飲酒習慣のある人のほうが、発がんリスクが高まることがわかっているのは、口腔がん、喉頭がん、咽頭がん、食道がん、大腸がん(男性)、肝臓がん、乳がんなどが挙げられています。
 多目的コホート研究では、飲酒習慣と胃がん、大腸がん、乳がんなどとの関連も調べました。胃がんについては、胃がん全体と飲酒習慣との関係はみられませんでしたが、胃がんの13%を占める噴門部のがん(胃の上部にできるがん)では、飲酒頻度が週に1日未満の人に比べて、常習的に飲酒する人のほうが発がんリスクが高く、1日の飲酒量が日本酒に換算して1合未満で2.5倍、1合以上2合未満で3.3倍、2合以上で3倍であることがわかりました。
 大腸がんについては、飲酒習慣がない人に比べて、1日の飲酒量が日本酒に換算して1合以上2合未満では1.4倍、2合以上では2.1倍、大腸がんの発生リスクが高いことがわかりました。
 また、飲酒習慣も喫煙習慣もある人は、飲酒習慣も喫煙習慣もない人に比べ、大腸がんの発生率が3.0倍高いことがわかりました。
 乳がんについては、飲んだことのない人に比べて、ときどき飲酒する人で1.17倍、 1週間の飲酒量が日本酒に換算して7合以下の人で1.06倍、7合以上の人で1.75倍、乳がんの発生リスクが高いことがわかりました。
 また、閉経前の人では、飲んだことのない人に比べて、飲酒量の最も多い(1週間に日本酒換算で7合より多い)人で1.78倍高いこともわかりました。閉経後の人では、統計学的有意差は認められませんでした。

 お酒を健康的に飲みたいならば、たばこを吸わず、受動喫煙も避け、適量(毎日飲むなら1日に1合程度まで、あるいは、飲まない日をつくりながら週7合程度まで)をわきまえることが大切といえるでしょう。

日本酒1合に相当するほかのお酒の量

   日本酒1合(180ml)に含まれるエタノール量(約23g)を、ほかの酒類で換算すると、ほぼ次の量に相当します。
 ・ビール 大びん1本(633ml)    ・焼酎 25度で0.6合(108ml)、30度で0.5合(90ml)
 ・ワイン グラス2杯(200ml)   ・ウイスキーまたはブランデー ダブル1杯(60ml)

津金 昌一郎先生

監修者 津金 昌一郎 先生 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究助成金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞、2014年高松宮妃癌研究基金学術賞などを受賞。一般向けの主な書著に『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学、山形大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。