緑茶で女性の胃がん・進行性の前立腺がんを予防
緑茶に含まれるポリフェノールであるカテキン成分が、がん細胞の増殖を抑制する作用がありそうだと欧米で報告されたことから、マスメディアにも大きく取り上げられて、「グリーン・ティでがん予防」とうたわれました。しかし、その後の日本を含む研究では、緑茶のがん予防効果についてのエビデンスは一致せず、結論には至っていません。日本人が好む緑茶は、はたしてがん予防効果が期待されるのでしょうか。
緑茶飲用と関連のあるがん、関連のないがん
国立がん研究センターのコホート研究では、数万人から約10万人の男女を対象に、約10年前後の間追跡調査し、緑茶飲用とがん発生率(リスク)との関連を調べています。主ながんは、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、前立腺がん、乳がん、甲状腺がんなどです。
緑茶を飲む頻度に関する質問への回答から、「1日1杯未満」、「1日1-2杯」、「1日3-4杯」、「1日5杯以上」飲むという4つのグループに分けて、リスクの比較をしました。
その結果、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、乳がん、甲状腺がんのリスクは、男女とも緑茶飲用との関連は見られませんでした。一部のグループに関連が見られた胃がんと前立腺がんについて、結果をご紹介しましょう。
緑茶をたくさん飲む女性は、胃がんリスクが低下
緑茶飲用と胃がん発生率(リスク)との関係を、40~69歳の男女約9万人を対象に行われた12年の追跡調査(コホートI)と7年間の追跡調査(コホートⅡ)の結果、女性で緑茶を「1日に5杯以上」飲むグループでは、「1日に1杯未満」のグループに比べ、胃がんのリスクが約3割低いこと示されました。男性では緑茶によるリスクの明確な低下はみられませんでした。
緑茶との関連があった女性で、胃の上部3分の1と、下部3分の2とに分けると、胃の上部では緑茶の予防効果はみられませんでしたが、胃の下部では「1日5杯以上」飲むグループは、「1日1杯未満」のグループに比べ、胃がんのリスクが5割低下することがわかりました。
男性では、明確な効果がみられなかったのは、緑茶をよく飲む人には喫煙者や、塩分の高い食事を好む人が多い傾向があり、これらはいずれも胃がんのリスクを高めることが知られています。その影響が残ってしまい、緑茶の作用が打ち消されたのではないかと考えられています。
緑茶の胃がん予防効果については、その他の研究も含め議論があり、今後の研究が待たれます。
緑茶をたくさん飲む男性は、進行性の前立腺がんのリスクが低下
緑茶飲用と前立腺がん発生率(リスク)との関係を、40~69歳の男性約5万人を対象に行われた14年の追跡調査と11年の追跡調査の結果、全ての前立腺がんをみると関連がありませんでした。ただし、前立腺内にとどまる限局性の前立腺がんと、前立腺を超えて広がる進行性の前立腺がんに分けてリスクを比べると、限局性の前立腺がんでは、緑茶飲用との関連はみられませんでしたが、進行性の前立腺がんでは、緑茶飲用の頻度が多ければ多いほどリスクが低下することがわかりました。緑茶を「1日5杯以上」飲むグループでは、「1日1杯未満」のグループと比べると、リスクの低下は約5割でした。
進行性の前立腺がんでリスクの低下がみられたのは、緑茶に含まれるカテキンが、がん細胞が広がること(浸潤)を阻害し、転移のときに多く発現する「MMP-2」という物質の発現を抑制する可能性などが考えられます。また、進行性前立腺がんのほうがアンドロゲンレセプター(男性ホルモンであるアンドロゲン受容体)の発現が多いので、テストステロンやアンドロゲンレセプターを抑制するカテキンの効果が、進行前立腺がんでより強く作用するとも考えられます。
緑茶による進行前立腺がんの予防効果は期待されますが、緑茶と前立腺がん全体との明確な関連を判断するには、今後も多くの研究が必要とされています。