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たばこと熱い飲食物を避け、飲酒は適量で、食道がん予防

たばこと熱い飲食物を避け、飲酒は適量で、食道がん予防

 宴会シーズンのこの時期、鍋を囲みながら飲酒にたばこといった光景が見られます。扁平上皮がんというタイプの食道がんは、喫煙と飲酒との関係が深いことがわかっています。また、熱い飲食物が食道粘膜を傷つけて、食道がんのリスクを上げることも示されています。欧米人に多い食道腺がんというタイプは、胃食道逆流症や肥満もリスク要因です。

食道がんは高齢者に多く、男性は女性の5~6倍

 わが国で1年間に新しく食道がんにかかる人は約17,496人(2005年データ)、1年間に食道がんで亡くなる人は11,713人(2009年データ)と発表されています(国立がん研究センターがん対策情報センターの「最新がん統計」)。
 年齢調整死亡率は男性では横ばいから近年は減少傾向、女性では1970年代から一貫して減少傾向にあります。年代別にみると、男女ともに罹患率・死亡率は、40歳代後半から高くなり始め、高齢になるほど高くなっています。女性より男性のほうが5~6倍高いのが特徴です。
 がんの中では、罹患率・死亡率ともに上位ではありませんが、ここ数年、著名人が食道がんにかかったことが話題になることが少なくないことから、注目される機会が増えました。

喫煙と飲酒のダブル習慣が、食道がんのリスクを高める

 食道がんの直接の原因は不明です。しかし、日本人の食道がんの90%以上を占める扁平上皮がん(食道の内膜を覆っている粘膜に発生するがん)は、飲食物の影響を受けやすい食道の中央部と下部に多く発生することから、食道粘膜を刺激し、炎症を起こすような生活習慣が、食道がん(扁平上皮がん)のリスクを高めていると考えられています。
 特に、喫煙と飲酒は、確立したリスク要因です。両方の習慣がある人では、さらにリスクが高まることが示されています。反対に、喫煙習慣も、飲酒習慣もない人が、食道がん(扁平上皮がん)になることはとても稀です。
 また、熱い飲み物や食べ物を好む習慣も、食道がん(扁平上皮がん)のリスクを高める要因とされています。実際に、熱いマテ茶を飲む習慣のある南ブラジルやウルグアイなどでは食道がんが多く、日本や香港、中国などの複数の研究でも、熱い飲食物が食道粘膜を傷つけて食道がんのリスクを上げると報告しています。

 ほかに、アルコール代謝酵素の働きが弱いタイプの遺伝子をもつ人(お酒を飲んで、顔がすぐに赤くなるような人に多い)の場合は、そうでない人と比べて、同じ飲酒量でも食道がんになりやすいという研究報告もあります。

 日本人には少ないのですが、欧米人の食道がんの半数以上を占める食道腺がん(食道の腺細胞に発生するがん)は、胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流する胃食道逆流症(逆流性食道炎)に加え、それを引き起こしやすい肥満が確実なリスク要因とされています。食道腺がんの前がん状態と考えられているBarrett(バレット)食道は、胃食道逆流症が長く続くと起こります。

まず禁煙、飲酒は適量、熱い飲食物は冷まして、野菜と果物をたっぷりと

 食道がんを予防するには、喫煙者の場合はまず禁煙が大切です。ニコチンガムやニコチンパッチが薬局薬店で購入できますので、それらを利用するのもよいでしょう。自力では禁煙できそうもない場合は、医師の指導のもと禁煙に取り組む禁煙外来を受診してみるのもよいでしょう。
 飲酒も適量を心がけましょう。適量とは、1日あたり日本酒に換算して2合未満です。また、熱い飲食物は、熱々の状態で口にするのは避け、ある程度冷ましてから飲食しましょう。また、野菜や果物は、食道がんのおそらく確実な予防因子とされているので、積極的に食べることも効果的ですが、喫煙や飲酒による影響を完全には打ち消すことはできません。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。