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ビタミンサプリメント摂取とがん・循環器疾患の関連

ビタミンサプリメント摂取とがん・循環器疾患の関連

 野菜や果物に含まれているビタミン類は、体調を整えて健康を維持する効果や、抗酸化作用によるがん予防効果があることは、さまざまな研究で示されています。その効果を期待して、ビタミンサプリメントを利用する人は多いことでしょう。はたしてその効果は・・・。ビタミンサプリメント摂取とがんおよび循環器疾患の関係を例にみてみましょう。

初回と5年後の2回のアンケートで、摂取パターンの変化をチェック

 日本各地(分散された特定の地域)の40~69歳の男女約6万人を対象に、平成2年(1990年)と平成5~6年(1993~1994年)に調査を開始し、平成18年(2006年)まで追跡調査した多目的コホート研究の結果に基づき、5年間のビタミンサプリメント摂取の変化と、全がん(がん全体)および循環器疾患(血管や心臓の病気)の発生率との関連を調べた研究があります。

 

 研究開始時(ベースライン調査)と研究開始から5年後(5年後調査)に行われた2回のアンケートに回答したのは62629人です。そのうち、追跡期間中に4501人が何らかのがんと診断され、また1858人に循環器疾患の発症が確認されました。

 ビタミンサプリメントを週1日以上摂っている人を「摂取者」と定義し、摂取行動は長期間で変化する傾向があることから、ベースライン調査と5年後調査の2回のアンケートの回答(ビタミンサプリメント摂取:あり・なし)により、その変化パターンを、
(1)非摂取者(ベースライン調査:摂取なし/5年後調査:摂取なし)
(2)過去摂取者(ベースライン調査:摂取あり/5年後調査:摂取なし)
(3)摂取開始者(ベースライン調査:摂取なし/5年後調査:摂取あり)
(4)継続摂取者(ベースライン調査:摂取あり/5年後調査:摂取あり)
の4つのグループに分け、非摂取者と比較して、その他のグループで全がんおよび循環器疾患のリスクが何倍になるかを調べています。

ビタミンサプリメントの摂取より、生活習慣のよしあしが影響しているかも

女性の過去摂取者と摂取開始者で、全がんリスクが上昇

 これらの結果から、男性では、ビタミンサプリメント摂取は全がんリスクにも循環器疾患リスクにも、特に関連はみられませんでした。

 女性では、非摂取者に比較して、過去摂取者で17%、摂取開始者で24%、全がんリスクが上昇することが示されました。
 女性のビタミンサプリメント過去摂取者グループには、他のグループと比較して、肥満者や喫煙者、高血圧や糖尿病治療の割合が高く、一方運動不足など、不健康な特徴がありました。こういった不健康を招く生活習慣や健康意識の低さも、リスク上昇に影響しているのではないかと考えられています。

女性の継続摂取者では、循環器疾患のリスクが低下

 循環器疾患に関しては、女性では、非摂取者に比較して、継続摂取者で40%リスクが低下していました。特に脳梗塞に対しては、統計学的に有意なリスクの低下がみられました。
 女性のビタミンサプリメント継続摂取者グループには、他のグループと比べて、肥満者の割合が少ない、健診(検診)受診率が高い、果物や食事からの葉酸やビタミンCの摂取が多いなどの特徴がありました。こういった健康的な生活習慣や健康意識の高さも、リスクの低下に影響しているのではないかと考えられています。

ビタミンサプリメントに頼るより、食事や生活習慣の改善が大切

 5年後調査において、男女ともビタミンB群サプリメントが最も多く摂取されていました。
 しかし、大規模な無作為化比較試験の結果では、ビタミンB群サプリメントにも、抗酸化ビタミンのサプリメントにも、がんや循環器疾患を予防する効果はないことが証明されています。また、脂溶性の抗酸化ビタミンのサプリメント(β‐カロテンやビタミンE)の過剰摂取(高用量摂取)では、肺がんや前立腺がんなどの発生リスクや死亡リスクを高めることが証明されています。
 最近の海外の研究では、虚血性心疾患における葉酸やビタミンB 12の併用療法が、がんの発生や死亡リスクを高めるという結果も報告されています。

 これらの結果から、明確な効果や安全性が確立されていないビタミンサプリメントに頼るより、科学的根拠に基づいて、食事や生活習慣の改善を実践するほうが大切かつ有効であると言えます。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。