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n-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がんとの関連

n-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がんとの関連

 いわゆる「青背の魚」に多く含まれるn-3不飽和脂肪酸が、肝がんの発生リスクを下げることが示されました。さらに、肝炎ウイルス感染者に限った解析においても予防効果が認められたことにより、肝炎ウイルス感染者の肝がん予防という観点からも、n-3不飽和脂肪酸は有用かもしれません。

n-3不飽和脂肪酸の摂取量と肝がん発生との関連を調査

 日本各地(分散された特定の地域)の45~74歳の男女約9万人を対象に、平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に生活習慣についてのアンケート調査を実施し、平成20年(2008年)まで追跡した調査結果にもとづいて、n-3不飽和脂肪酸の摂取量と肝がん発生との関連を調べた結果を分析した多目的コホート研究があります。

 この研究では、開始時のアンケートから、n-3不飽和脂肪酸の摂取量およびそれぞれ個別の不飽和脂肪酸の摂取量によって、5つのグループに分け、肝がんの発生リスクを調べています。
 11年の追跡期間中で、研究対象者のうち398人が肝がんにかかったことがわかりました。

n-3不飽和脂肪酸の摂取量が多いグループほど、肝がん発生リスクは低い

 n-3不飽和脂肪酸は、EPA(エイコサペンタペンタ塩酸)、 DPA(ドコサペンタエン酸)、 DHA(ドコサヘキサエン酸)などで、サンマ、イワシ、ブリ、サバなどいわゆる「青背の魚」と呼ばれる魚に多く含まれている脂肪酸です。
 この研究の結果、n-3不飽和脂肪酸を含む魚(n-3不飽和脂肪)を多く摂取しているグループほど、肝がんの発生リスクが低いことがわかりました。

 肝がんの多くは、B型やC型の肝炎ウイルスに感染した人に発生することがわかっています。この研究では、肝炎ウイルス陽性者(感染者)に限った解析も行われており、結果はほとんど同様で、特にC型肝炎ウイルス陽性者において、n-3不飽和脂肪酸摂取量が多いほど肝がんリスクが低いことが示されました。

n-3不飽和脂肪酸は、インスリン抵抗性も改善する

 ほかの研究で、n-3不飽和脂肪酸には、抗炎症作用があることが報告されています。肝がんの多くは、B型やC型の肝炎ウイルスに感染し、慢性肝炎を経て発症することがわかっています。n-3不飽和脂肪酸の抗炎症作用により、慢性肝炎の発症を抑え、その先にある肝がんの発症を予防している可能性が考えられます。
 また、別な研究では、n-3不飽和脂肪酸に、インスリン抵抗性を改善する作用があることも報告されています。一方、糖尿病や肥満が肝がんの発生リスクを上げることが、多くの疫学研究で報告されています。このことからインスリン抵抗性は、肝がんの発生リスクと考えられます。
 n-3不飽和脂肪酸の摂取量が多いと、肝がん発生リスクが低下するのは、n-3不飽和脂肪酸の抗炎症作用とインスリン抵抗性の改善によるのかもしれないと示唆されます。

 この研究は、n-3不飽和脂肪酸が肝がんの発生リスクを下げる可能性を報告した初めての研究であり、さらに肝炎ウイルス感染者の肝がん予防にも、有用であることを示しています。他の集団による検証など、さらなる研究が求められます。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。