日本女性の卵巣がんリスク要因
日本女性の卵巣がんの発生率と死亡率は、以前は低かったものの、上昇傾向にあります。そこで、出産数や生活習慣などの卵巣がん発生リスクへの影響を分析したところ、出産数増加に伴うリスク低下傾向と、7時間以上の睡眠時間によるリスク低下がみられました。
日本の女性に卵巣がんが増えている
日本女性の卵巣がんの発生率は、高齢化の影響を除いた年齢調整罹患率で見ても、過去数十年にわたって上昇傾向にありますが、欧米諸国と比較すると高くはありません。しかしながら、年齢調整した死亡率については、1950年代から1990年代までは一貫して上昇傾向にありましたが、その後は、減少傾向に転じており、早期発見や治療の影響があるのかもしれません。
また、移民研究から、米国生まれの日系女性の卵巣がん発生率が、日本生まれの日本女性よりも高いことが示唆されています。そこで、日本女性の卵巣がん発生について調査することで、卵巣がんの原因についての知見が得られるかもしれないことから、多目的コホート研究(JPHC研究)では、日本女性における卵巣がんのリスク要因を分析しました。
出産数の多さと7時間以上の睡眠時間が卵巣がんリスクを低下
調査では、対象となった女性45,748人に対し、平均で約16年の追跡調査をしたところ、86件の新たな上皮性卵巣がんが認められました。
卵巣がんの可能性のあるリスク要因としては、次のようなものが挙げられます。
- 初潮年齢
- 出産数
- 初産年齢
- 授乳経験の有無
- 外因性ホルモンの使用の有無
- 閉経しているかどうか
- BMI
- 喫煙経験の有無
- 間接喫煙の有無
- 飲酒の有無
- 余暇の運動習慣の有無
- 日常の睡眠時間
- 一次血縁者のがん歴の有無
分析では、このそれぞれのリスク要因について、リスク要因があるグループの、ないグループに対する相対リスクを検討しました。なお、グループによる年齢と居住地域の差が結果に影響しないように考慮してリスクを算出しました。
その結果、リスク要因のほとんどは、卵巣がんリスクとの間に統計学的に有意な関係はみられませんでした。出産数と卵巣がんリスクとの関連を調べると、出産数が1増えるごとに発生リスクが0.75減少していました。また、日常の睡眠時間が7時間以上のグループでは、6時間未満のグループに比べて0.4のリスク低下がみられました。
欧米の先行研究と異なる結果。さらなる検証が求められる
これまで主に欧米で行われた先行研究の多くでは、出産歴の有無と卵巣がんリスクとの関連が示されていました。また、低い初潮年齢、高い初産年齢、母乳による授乳経験がないことと、卵巣がんリスクとの関係を示した研究もありましたが、今回の研究ではこれらを確認できませんでした。日本女性と欧米女性とで卵巣がんリスクの特性が異なる可能性や、症例数が少ないためにはっきりとした関連が現れなかった可能性が考えられます。
国際がん研究機関(IARC)の最近の調査によると、卵巣がんリスクは卵胞ホルモンと黄体ホルモンを含む経口避妊薬の使用により低下し、卵胞ホルモンのみのホルモン補充療法では上昇することがわかっています。しかし、今回の研究ではこれらが「外因性ホルモン使用」という一つの要因にまとめられており、個別に吟味することができませんでした。
今回の研究では、出産回数が多いことと、日常の睡眠時間が7時間以上であることが卵巣がんリスクを下げる可能性があることが示されました。特に睡眠時間と卵巣がんリスクの関連は、これまで報告されていないため、今後の検証が必要となります。