節酒・禁煙が進行前立腺がんの予防につながる可能性がある
飲酒・喫煙と前立腺がんの関連を、がんが前立腺内にとどまる「限局がん」と、前立腺を越えて広がる「進行がん」に分けて調査したところ、アルコール摂取量が多いほど、また、喫煙者ほど進行前立腺がんの発生リスクが高いことがわかりました。節酒・禁煙による進行前立腺がんの予防効果が期待されます。
アルコール摂取量が多いほど、進行前立腺がんの発生リスクが高くなる
飲酒や喫煙と前立腺がんの発生との関連については、確立していません。また、前立腺がんの病期は、がんが前立腺内にとどまる「限局がん」と、がんが前立腺を越えて広がる「進行がん」に大きく分けられ、それによってリスクとなる要因や予防につながる要因が異なるという報告があります。
そこで、多目的コホート研究(JPHC研究)において、飲酒・喫煙と前立腺がんの発生リスクとの関連を、病気別に検討しました。
研究では、平成2(1990)年と平成5年(1993年)に、日本各地(分散された特定の地域)の40歳から69歳の男性約5万人を対象としています。調査開始時のアンケートにより、飲酒習慣および喫煙状況をそれぞれ5つのグループに分けて比較しました。
平均で約16年間の追跡期間中に、913人に前立腺がんが確認され、年齢や肥満指数、婚姻状況、糖尿病既往歴などの偏りが結果に影響しないように考慮して、飲酒・喫煙との関連を検討しました。
飲酒習慣については、「飲まない(月に1回未満)」グループ、「時々飲む(月に1回から3回)」グループ、さらにそれ以上飲むグループを飲酒量によって「エタノール換算150g未満」「同150gから300g未満」「同300g以上」の3つに分けました。
その結果、飲酒とすべての前立腺がんには関連がみられませんでしたが、限局がんと進行がんに分けて比較したところ、進行がんではアルコール摂取量が多いグループで発生リスクが高くなっていました。「飲まない」グループと比較して、週当たりのアルコール摂取量が「エタノール換算150g以上」のグループの進行がんの発生リスクは、1.51倍という結果でした。一方、限局がんでは飲酒との関連はみられませんでした。
喫煙者ほど進行前立腺がんの発生リスクが高くなる
喫煙については「吸わない」グループ、「やめた」グループ、さらに「吸う」グループを喫煙本数×年数によって3つのグループに分けて検討しました。
その結果、喫煙とすべての前立腺がん、および限局前立腺がんでは、吸わない人に比べて、吸う人の発生リスクが低くなりました。しかし、これは近年、PSA検査(前立腺がんがあると血液中に増える「PSA」というたんぱく質の量を調べる検査)が普及したことの影響を反映している可能性があります。元々健康意識が高く、たばこを吸わない、お酒を多量に飲まないなどの人がPSA検査を受けることが多く、そのような人たちに前立腺がんが多く発見されたのではないかと考えられるのです。実際、PSA検査で発見された前立腺がん対象者の喫煙割合は38.8%であったのに対し、PSA検査を受けずに自覚症状で発見された前立腺がん対象者の喫煙割合は、45.3%と高くなっていました。
そこで、自覚症状で発見された前立腺がんに限定して、飲酒・禁煙との関連を調べたところ、飲酒と前立腺がんの関連については結果が変わりませんでしたが、喫煙と前立腺がんの関連については、統計学的有意ではないものの、吸わない人よりも吸う人のほうが進行前立腺がんの発生リスクが高くなりました。
節酒を心がけ、禁煙することが前立腺がんの予防につながる
アルコールは、性ホルモンに影響を与えることや、分解時にアセトアルデヒドという発がん性をもつ物質が生成されることで、前立腺がんのリスク要因となる可能性が考えられます。また、喫煙は前立腺がんの進行を促進するエストロゲン代謝物を増加させるため、進行前立腺がんのリスク要因となる可能性が考えられます。
これまで、飲酒や喫煙は、多くの部位のがんのリスクを上げることが示される一方、前立腺がんについては、そのような関連が示されてきませんでした。それには、PSA検査によって発見される前立腺がんの存在が影響していると考えられていましたが、今回の研究で、進行性のがんにおいて明らかな関連が認められたことは、節酒と禁煙のさらなるメリットが示されました。
飲酒や喫煙は、がん全般だけでなく、循環器疾患の原因となることがわかっています。ふだんから節酒を心がけ、たばこを吸う人は禁煙することは、健康長寿のための必須の要件と言えるでしょう。