4条 バランスのとれた食生活を
がんのみならず、さまざまな生活習慣病を防ぐ食生活の基本は、栄養バランスよく適量食べること。特に、和食中心の食事は、塩分をなるべく控えるように工夫すると、多くのがんの予防につながります。 また、加工肉や牛・豚・羊肉などのとりすぎと、熱い飲食物にも注意しましょう。
栄養バランスにすぐれた和食の唯一の欠点は「高塩分」
いまや和食は、ユネスコ無形文化遺産にも登録され、食材の多様さや栄養バランス、伝統的な食文化が世界的に認められています。
和食に多く登場する魚介類は、肝臓がんや結腸がんのリスクを低下させる可能性のあるEPAやDHAを多く含んでいます
(「n-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がんとの関連」参照)。
また、豆腐や納豆、みそ、しょうゆなどに含まれるイソフラボンに、乳がんや前立腺がんの予防効果がある可能性もわかりつつあります
(「大豆・大豆製品で、がんを防ぐ」参照)。
その一方で、和食には漬物類や塩蔵食品など、高塩分のものが多くあります。これらの食品をとりすぎると胃がんのリスクが高くなってしまうので、常に減塩を心がけましょう(これについては「5条 塩辛い食品は控えめに」で詳しく解説します)。
栄養バランスよく適量の和食を食べていれば、過度の肥満を防ぐことにもつながり、多くのがんの予防につながります。
加工肉や赤肉のとりすぎ、熱い飲食物を避ける
日本人に大腸がんが増えたのは、戦後の食生活の欧米化が原因であるとされ、その一つとして肉類の食べすぎがよく挙げられます。
ハムやソーセージ、ベーコンなどの加工肉や、赤肉(牛・豚・羊肉など。鶏肉、魚は含まない)が大腸がんの発生リスクを上げることは、
国際的な評価において「確実」とされており、日本人における研究でも、同様の結果が示されています(「赤肉・加工肉の過剰摂取は、大腸がん発生リスクを高める」参照)。
国際的には、赤肉は1日平均で90g(生肉換算重量)を超えないことが推奨されています。とはいえ、日本人の平均は63gであり、8割程度の日本人はリスクが上昇するほどの量をとっていません。アジア人を対象とした研究では、赤肉の摂取量が多い人ほど、がんや循環器疾患による死亡リスクが低い傾向にあるというデータもあるので、90gを超えない範囲でとるようにすることも重要です。
また、日本人を対象とした研究の系統的レビューによる因果関係評価により、飲食物を熱い状態でとると、食道がんの発生リスクが上がることが「ほぼ確実」とされています。
飲食物が熱い場合は、なるべく冷ましてからとり、口腔や食道の粘膜を傷つけないようにしましょう。
食べ物の予防効果は、科学的根拠が確実かどうかを見極める
現時点では、がんを予防する効果が高いことが確実な食品や栄養素はわかっていませんが、日本には、「◯◯を食べるとがんになりにくい」といった、食べ物とがんに関する情報があふれています。これらの情報が正しいかどうか、食生活に取り入れる価値があるかどうかを判断するには、科学的根拠に基づいているかどうかを見極める必要があります。
科学的根拠といっても、動物実験や試験管内実験だけ、あるいはヒトを対象とした疫学研究であっても一つの研究結果のみで確認されたものなどでは、根拠が乏しいといわざるを得ません。さまざまな角度から行われた複数の研究で、同様の関係や結果が示されていること、なぜそうなるのかというメカニズムもある程度説明できることが重要です。
毎日の食事は、バランスがよいことが基本ですが、自分にとっておいしくて好きなものを中心に、豊かな食生活を送ることも大切です。その中で、科学的根拠があるものについては、とりすぎたり、不足したりすることがないように心がけてください。