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7条 適度に運動を

7条 適度に運動を

 体をよく動かしている(身体活動量が高い)人ほど、がんにかかるリスクが低く、心筋梗塞などによる死亡リスクも下がるため、死亡全体のリスクが減ることがわかっています。 毎日の通勤や仕事、家事などの中で、できるだけ体を動かすようにし、加えて週に1回は60分程度の活発な運動を行うようにしましょう。

身体活動量が高いと、大腸がん・がん全体の発生リスクが低下

 日本人を対象とした研究の系統的レビューによる因果関係評価によると、身体活動が大腸がんの発生リスクを下げることは「ほぼ確実」とされています(科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究「身体活動と大腸がんリスク」参照) 。
 また、日本人を対象としたコホート研究*から、仕事や運動などからの身体活動量が高くなるほど、がん全体の発生リスクが低下することや(JPHC Study「身体活動量とがん罹患との関連について」参照)、身体活動量が高いと心筋梗塞などの心疾患の死亡リスクも下がるため、 がんだけでなく死亡全体のリスクも低下することがわかっています(JPHC Study「身体活動量と死亡との関連について」 参照)。

 さらに、国際的な評価でも、世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)の報告書により、身体活動を上げること(運動)が大腸(結腸)がんの発生リスクを下げることは「確実」、閉経後乳がんや子宮体がんの発生リスクを下げることも「ほぼ確実」とされています。

*コホート研究…数万人以上の特定集団を対象に、まず生活習慣などの調査を行い、その後何年も継続的な追跡調査を行うもの

日々の生活活動を増やし、運動習慣を持とう

 厚生労働省では、「健康づくりのための身体活動基準2013」の中で、18~64歳では身体活動量の基準として、強度が3メッツ以上の身体活動を毎日60分行う(=1週間あたり23メッツ・時)ことを推奨しています。
 メッツとは運動強度を表す単位で、座って安静にしている状態を1メッツとして、それぞれの生活活動や運動のエネルギー消費量が安静時の何倍になるかを表すものです。メッツ・時とはメッツに運動時間(時間)をかけたものです。下表を参考に、1週間あたり23メッツ・時を目標に、身体活動を行いましょう。
 デスクワークの多い人なら、歩行またはそれと同等以上の身体活動を毎日60分程度行い、週に1回程度は60分程度の早歩きや30分程度のランニングなどの活発な運動を行うことが勧められます。

また、65歳以上の基準としては、強度を問わず1週間あたり10メッツ・時、具体的には横になったままや座ったままにならなければどんな動きでもよいので、身体活動を毎日40分行うことを目安としています。

1メッツ・時に相当する活発な身体活動の例

(18~64歳では毎日3メッツ・時以上、1週間あたり23メッツ・時を推奨)

生活活動 運動
20分間の歩行、犬の散歩
18分間の掃除機かけ
18分間の料理や皿洗い
17分間子どもと遊ぶ(室外)
15分間の自転車こぎ(通勤・通学)
7~8分間の重い荷物運び

20分間の軽い筋力トレーニング
14分間の速歩
13~14分間のゴルフ
10分間の軽いジョギング
8~10分間のエアロビクス
7~8分間のランニング
7~8分間の水泳

(国立健康・栄養研究所「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」より作成)

 先述したコホート研究の結果によると、がん発生リスクや死亡リスクが低い人は、身体活動の種類によらず、全体的によく動いている人であることがわかっています。
スポーツや仕事、家事など、自身の生活の中で可能な方法で身体活動量を増やしていくことが、がんの予防のみならず、健康で長生きすることにつながると考えられます。


津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。