9条 ウイルスや細菌の感染予防と治療
肝がんや子宮頸がん、胃がんは、原因となるウイルスや細菌に感染することが最大のリスクであることがわかっています。ウイルスや細菌の感染を予防し、定期的な検査を行って、感染がわかったら早めに治療を行いましょう。
肝炎ウイルス検査を一度は受けておき、肝がんを予防
日本人の肝がんの8割以上が、B型・C型肝炎ウイルスの持続感染が原因とされています。B型・C型肝炎ウイルスの持続感染者の肝がんの発生リスクは、非感染者と比較して数十倍高いことが報告されています。一方で、非感染者が肝がんになることはまれとされています。
B型・C型肝炎ウイルスは主に血液(出産時の母子感染、輸血や血液製剤の使用、感染リスクが明らかでなかった時代の医療行為など)で感染し、また、B型肝炎ウイルスは性的接触を介しても感染します。
知らないうちに感染している恐れもあるため、地域の保健所や医療機関で、一度は肝炎ウイルスの検査を受けておきましょう。
肝炎ウイルスに感染していると、高い確率で、慢性肝炎から肝硬変、そして肝がんへと進行していく恐れがあるので、ウイルスの駆除や肝臓の炎症を抑える治療を行います。肝炎の治療法はめざましく進歩しており、2015年後半には、飲み薬だけでほとんどの人が治るC型肝炎の新薬が次々と登場しています。肝臓の専門医とよく相談しながら治療を進めていくことが大切です。
肝がんのリスク要因としては、そのほかに喫煙、過剰飲酒、高血糖・糖尿病、肥満などがあげられ、コーヒーの飲用が予防要因とされています。
子宮頸がんを防ぐには、若いうちから定期的にがん検診を受ける
子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は、性交渉により感染し、性交経験のある女性のほとんどが一生に一度は感染することがわかっています。
HPVに感染しても、多くの場合は自然に消滅しますが、その一方で繰り返し感染を起こし、長期持続的に感染すると子宮頸がんを引き起こす可能性があります。
HPVにはワクチンがありますが、副反応などの問題により、2015年12月現在、定期接種の積極的推奨差し控えの措置がとられています。
子宮頸がんは20代で発生するケースもあり、性交経験のある人は、若いうちから子宮頸がん検診を定期的に受診することが有効です。また、喫煙も確立したリスク要因なので、あわせて禁煙しましょう
ヘリコバクター・ピロリ菌の長期感染が胃がんの原因に
胃がんの発生に、ヘリコバクター・ピロリ菌がかかわっていることはよく知られており、胃がんのほとんどは感染者から発生しています。一方で、日本では中高年者の感染率が高く、50歳以上の日本人の多くが感染していると推定されています。
日本人の中高年男女(40~69歳)4万人を対象に、15年間追跡調査したコホート研究*では、ピロリ菌感染陽性の人の胃がん発生リスクは陰性の人の5.1倍。さらに、「隠れた陽性者」といわれる、ピロリ菌感染後に胃粘膜の萎縮が進行し血液検査上は陰性となる人も含めると、胃がん発生リスクは10倍にもなりました(JPHC Study「ヘリコバクター・ピロリ菌感染と胃がん罹患との関係」)。一方、胃がん症例の99%がピロリ菌に感染していたのに対し、胃がんにならなかったグループでも90%が感染していました。
慢性胃炎や萎縮性胃炎と診断された人は、ピロリ菌感染の可能性が高いため、「ヘリコバクター・ピロリ抗体検査」を受けることをおすすめします。
ただし、感染者のうち胃がんを発生するのは10%以下であり、ピロリ菌除菌による胃がん予防効果も、蓄積されつつあるものの、確立はされていません。感染がわかったら、除菌についてはかかりつけ医と相談しながら対応し、定期的に胃の検診を受けて胃がんの早期発見に努めるようにしましょう。胃がん予防のためには、禁煙と減塩も重要です。
*コホート研究…数万人以上の特定集団を対象に、まず生活習慣などの調査を行い、その後何年も継続的な追跡調査を行うもの