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10条 定期的ながん検診を

10条 定期的ながん検診を

 がんは、早期に発見して治療を開始すれば、治ることの多い病気です。また、早期であれば、より体にやさしい治療を受けられる可能性もあります。しかし、症状に気づいて受診したときには進行してしまっている場合がほとんどなので、定期的にがん検診を受けて、早期発見に努めましょう。

大腸がん検診・胃がん検診受診者は、そのがんによる死亡率が半分以下に

 日本人の中高年男女(40~59歳)4万人を対象に、13年間追跡調査したコホート研究*では、過去1年間に胃X線検査を受けた人(胃がん検診受診あり)と受けていない人(胃がん検診受診なし)とで、その後の胃がんによる死亡率を比較しています。
 その結果、過去1年間に胃がん検診受診ありの人では、胃がん検診受診なしの人と比べ、胃がんによる死亡率が約半分に低下していました。胃がんを除くがん全体や死亡全体でみた場合の死亡率も、胃がん検診受診ありの人のほうが低下していましたが、特に胃がんによる死亡率の低下が顕著でした(JPHC Study「胃がん検診受診と胃がん死亡率との関係」
 また、同様に、過去1年間に便潜血検査を受けた人(大腸がん検診受診あり)と受けていない人(大腸がん検診受診なし)とで、その後の大腸がんによる死亡率を比較しています。それによると、大腸がん検診受診ありの人では、大腸がんによる死亡率が約70%低下しており、大腸がんを除くがん全体や死亡全体でみた場合の死亡率も低下していました(JPHC Study「大腸がん検診受診と大腸がん死亡率との関係」)。
 さらに、大腸がんが見つかったときの進行度でみてみると、検診受診ありの人では、大腸がんが早期で発見される可能性が高くなり、進行してから診断される危険性は約6割減っていました。

 一般的に、がん検診を受診する習慣のある人は、そうでない人よりも健康意識も高く、より健康的な生活習慣を持つ人が多いため、がんや死亡率全体が低下したものと推察されます。しかしながら、胃がんや大腸がん検診受診ありの人は、なしの人と比べて、そのがんの死亡率の低下の度合いが、それ以外による死亡率の低下の度合いよりも大きくなっていたことから、がん検診を受診すること自体が、将来のそのがんによる死亡率の減少につながっていることが示唆されます。

科学的根拠に基づいた有効ながん検診を適切に受けよう

 しかし、すべてのがんに対して検診が有効(死亡率減少効果が期待できる)なわけではなく、検診に伴うさまざまな不利益*2を受ける場合もあります。したがって、不利益と比較して、利益が大きいという科学的根拠がある検診を受けることが重要です。
 すなわち、がん検診には「科学的根拠に基づいた有効ながん検診」と、「必ずしも必要でない検診」があるのです。
 日本人を対象としたがん検診のうち、科学的根拠に基づき厚生労働省が推進するがん検診と、その受診対象者、受診間隔は次のとおりです(2016年1月15日現在)。

  
種類 検査項目 対象者 受診間隔
胃がん 問診及び胃部X線検査 40歳以上(男女) 年1回
子宮がん 問診、視診、子宮頸部の細胞診及び内診 20歳以上(女性) 2年に1回
肺がん 問診、胸部X線検査及び喀痰(かくたん)細胞診 40歳以上(男女) 年1回
乳がん 問診、視診、触診及び乳房X線検査(マンモグラフィ) 40歳以上(女性) 2年に1回
大腸がん 問診及び便潜血検査 40歳以上(男女) 年1回
※厚生労働省が推奨するがん検診について、2016年度より以下のような変更が予定されています。
  • ①胃がん検診:内視鏡検査が追加され、50歳以上、2年に1回に変更。ただし、当分の間はこれまでどおりでも差し支えない。
  • ②乳がん検診:マンモグラフィによる検診が原則。視触診を実施する場合は、マンモグラフィと併用。
(厚生労働省資料より作成)

 なお、がん検診はがんを予防するものではなく、発生してしまったがんを早期に発見し早期治療に結びつけることで、命を守るためのものです。
 まずは、当連載1条から9条までの予防法を実行したうえで、必要な検診を定期的に受けるようにしましょう。

*1 コホート研究…特定集団を対象に、まず生活習慣などの調査を行い、その後何年も継続的な追跡調査を行うもの
*2 検診に伴うさまざまな不利益…偽陽性、偽陰性、精密検査の侵襲・合併症、過剰診断など

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。