日本人に増えているがん、減っているがん
がんの罹患数(新たにそのがんと診断された人の数)や死亡数は年々増加していますが、部位別に見てみると、時代の移り変わりとともに変化が見られます。日本人のがんの現状と、背景にある要因を知って、がん予防に役立てましょう。
罹患数も死亡数も大腸がん、肺がん、胃がんがトップ3
毎年、新たにがんになる人はおよそ100万人といわれています。2015年4月末に国立がん研究センターが発表した「2015年のがん罹患数、死亡数予測」によると、罹患数では大腸がんが順位を上げてトップとなり、次いで、肺がん、胃がん、前立腺がん、乳がんと続きます。一方、死亡数では、肺がん、大腸がん、胃がん、すい臓がん、肝臓がんの順となり、ここでも大腸がんの順位が上昇しています。
総合的に見てみると、罹患数の約4割、死亡数の約半数を、大腸がん・肺がん・胃がんの3つが占めている、というのが現状です。これらのがんの増加には高齢化の影響が大きく、高齢化の影響を除いた「年齢調整死亡率」では、胃がんは1960年以降減少傾向、大腸がんと男性の肺がんは1990年代半ばより減少傾向(女性の肺がんは横ばい傾向)で、増加しているわけではありません。また、罹患率については、登録精度の問題があり年次推移を観察するのには注意が必要ですが、胃がんは減少傾向、大腸がんと男性の肺がんは横ばい傾向(女性の肺がんは増加傾向)にあります。
実際、大腸がんの罹患率を年代別に見てみると、40歳代くらいから増加しはじめ、高齢になるほど高くなります。一般的に、食の欧米化が大腸がん増加の主な原因だといわれることが多いのですが、戦後から1970年代まで続いたエネルギ一摂取量の増加が関係しているかもしれません。それに加えて、運動不足や食物繊維の摂取量が極端に少ないことなども、大腸がんを招くことが明らかになっていますし、喫煙習慣が関与している可能性もあります。
肺がんの減少は、20年後にあらわれたたばこ消費本数と喫煙率低下の効果
肺がんの罹患率は50歳代くらいから増加しはじめ、こちらも高齢になるほど高くなります。肺がんによる死亡率は、1960~80年代に急激に増加しましたが、1990年代半ば以降は、年齢調整死亡率は横ばいから減少傾向を示しています。
これには、男性の喫煙率の移り変わりが関係しています。戦前や戦後しばらくは物資不足でたばこが貴重品だったことから、当時若者だった人は喫煙習慣がつきにくく、喫煙率が低くなっていました。そのため、1940年前後生まれの人は肺がんで死亡する人は少ないという特徴があります。
その後、日本が経済復興を遂げて、たばこが安価に入手できるようになると、たばこの消費量本数は急増し、それ以降の世代の肺がん死亡率が再び増加しました。しかしながら、1970年代からは、たばこの消費本数は減少に転じ、喫煙率と共に、一貫して減少傾向にあります。こうした1970年代の喫煙率減少の効果が20年の時間差を経て1990年代半ばからあらわれたものと思われます。
これらのデータをみても、肺がんの原因が圧倒的にたばこであることがよくわかります。