文字サイズ

食道がん、口腔がん予防には、禁煙・節酒と、熱い飲食物は冷ましてから

食道がん、口腔がん予防には、禁煙・節酒と、熱い飲食物は冷ましてから

罹患率・死亡率ともに上位ではないものの、年間1万人以上が亡くなっている食道がん。とくに、男性の発生率が高いのが特徴です。食道がんは、喫煙・飲酒が確実なリスク要因となっているほか、熱い飲食物でもリスクは上昇します。また、口腔がんも喫煙・飲酒でリスクが上がるため、禁煙・節酒に努めましょう。

食道粘膜への刺激がリスクを高める

食道がんは、がんの中では罹患率・死亡率ともに上位ではないものの、近年、数名の著名人が食道がんにかかったことが報じられたこともあり、注目されるようになりました。年代別にみると、男女ともに罹患率・死亡率は、40歳代後半以降増加し始める傾向にあります。また、食道がんは男性に多く、女性の5倍以上となっています。

食道は、喉と胃の間をつなぐ長さ25㎝ほどの管状の臓器で、食べたものを口から胃へ送る働きをしています。食道は、内側から外側に向かって粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層に分かれています。日本人の食道がんの90%以上を占めるのは、このうちの一番内側にある粘膜に発生する扁平上皮がんです。なかでも、飲食物の影響を受けやすい食道の中央部と下部に多く発生することから、食道粘膜を刺激するような生活習慣が食道がんのリスクを高めると考えられています。

また、食道がんのほかに、消化器官にできるがんとして、口腔がんがあげられます。口腔がんは、口の中にできるがんの総称で、日本人にもっとも多いのは舌にできる舌がんです。そのほか、舌と歯茎の間にできる口腔底がん、歯肉がん、頬粘膜がん、上あごにできる硬口蓋がん、口唇がんがあります。

喫煙、飲酒により発がんリスクは4~5倍に上昇

食道がんの直接の原因は不明ですが、喫煙と飲酒が確実なリスク要因であることは明らかとなっています。喫煙習慣・飲酒習慣と発がんの関連性を調査した日本のコホート研究をはじめ多くの研究よると、特に喫煙と飲酒、両方の習慣がある人は、さらにリスクが高まります。反対に、たばこも吸わず、お酒も飲まない人が、食道がんになることは稀です。

男性の食道がんの年齢調整死亡率(2014年、75歳未満)を都道府県別に見てみると、秋田県、高知県、鹿児島県などが高くなっています。これらはいずれもお酒をたくさん飲む習慣のある地域であり、このことからも、食道がんと飲酒との密接な関係がわかります。

そして、熱い飲み物や食べ物も、食道粘膜を傷つけ、発がんリスクを高めます。実際、熱いマテ茶を飲む習慣のある南米では食道がんが多く、熱い茶粥を食べる習慣のある奈良県・和歌山県でもかつて食道がんの罹患率が高くなっていました。

そのほか、アルコール代謝酵素の働きが弱いタイプの遺伝子をもつ人は、そうでない人に比べて、同じ飲酒量でも食道がんになりやすいという研究報告もあります。そのため、お酒を飲んで、顔がすぐに赤くなるような人は、飲み過ぎないように注意が必要です。

また、口腔がんの原因としては、口腔内の不衛生が指摘されているほか、やはり、喫煙や飲酒が危険因子としてあげられています。

コホート研究…数万人以上の特定集団を対象に、まず生活習慣などの調査を行い、その後何年も継続的な追跡調査を行うもの

津金 昌一郎

監修者 津金 昌一郎 先生 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究助成金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞、2014年高松宮妃癌研究基金学術賞などを受賞。一般向けの主な書著に『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学、山形大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。