がん予防のカギは禁煙、節酒、食生活、身体活動、適正体重
2016年度の当コーナーでは、がんの種類ごとに発生要因と予防法について解説してきました。最終回である今回は、がんという病気全般に共通する予防のポイントをまとめました。あらためて、ご自身の生活習慣を見直すきっかけとしてお役立てください。
健康習慣が1つ増えるごとに、がん発生リスクが低下
これまで述べてきたとおり、がんの発生には生活習慣が深くかかわっています。なかでも、喫煙、飲酒、食事、身体活動、肥満度の5つは、がんの発生に確実に関係しているということが国内外の研究で明らかになっています。言い換えれば、禁煙、節酒、食生活(塩分を控えるなど)、活発な身体活動、適正体重の維持という5つの健康習慣を実践することで、がんのリスクを下げることができるのです。
国立がん研究センターの多目的コホート研究*では、日本各地の45~74歳の男女約8万人(がんや循環器疾患の既往のない人)を対象に、5つの健康習慣と全がん発生率との関連を調査しました。その結果、実践する健康習慣が1つ増えるごとに、がんのリスクが低下することがわかりました。5つの健康習慣のうち「0または1つ」のみ実践した場合のリスクを100とすると、5つすべてを実践している人は男性で43%、女性で37%リスクが低下しました。つまり、健康習慣を1つでも多く実践するほど、より高い確率でがんを予防できるのです。
*コホート研究…数万人以上の特定集団を対象に、まず生活習慣などの調査を行い、その後何年も継続的な追跡調査を行うもの
とにかく禁煙と節酒を
5つの健康習慣のなかでも、特に重要なのが禁煙と節酒です。これまでも再三お伝えしてきたとおり、喫煙と過剰飲酒はほとんどのがんの発生リスクを確実に上げます。
私たちが行ったコホート研究でも、喫煙者は非喫煙者に比べて肺がんのリスクは4~5倍、肺がんに限らずなんらかのがんにかかるリスクは1.5~1.6倍になることが明らかになりました。また、自身は非喫煙者であっても、受動喫煙にも注意する必要があります。受動喫煙でも、肺がん(特に腺がんタイプ)や乳がんのリスクが高くなるからです。
飲酒に関しては、1日あたりの飲酒量を日本酒換算で割り出し、飲酒量とがん発生率との関連を調べました。その結果、ときどき飲む人を1とすると、2合未満の人は1.17倍、2合以上3合未満の人は1.43倍、3合以上飲む人では1.61倍がん発生リスクが高くなることがわかりました。さらに、この結果を喫煙者と非喫煙者に分けて比較すると、非喫煙者は飲酒量が増えてもがんの発生率はそれほど変わらないのに対し、喫煙者は飲酒量が増えるにつれてがんの発生率が高くなりました。ときどき飲む人と比べて、1日2合以上飲む人は1.93倍、3合以上飲む人は2.32倍もリスクが高くなります。
つまり、喫煙者はすぐにでも禁煙し、非喫煙者は受動喫煙に十分注意すること。そして、飲酒する場合は適量を守ることががん予防には非常に重要なのです。
塩分の多いものは週1回未満に
食事では、日本人が特に注意しなければならないのが塩分のとりすぎです。日本人を対象とした多くの研究でも、塩蔵食品の摂取量が多いほど、胃がんになりやすいことがわかっています。塩分のとりすぎは高血圧につながり、脳卒中や心臓病の引き金にもなります。
減塩への意識が高まっているとはいえ、今でも日本人(成人)の1日の食塩摂取量の平均値は、男性11.0g、女性9.2gと高くなっています(厚生労働省「平成27年国民健康・栄養調査の概要」。できるだけ食塩摂取量を減らし、男性8.0g未満、女性7.0g未満を目指したいところです。梅干しや干物、塩鮭、たらこ、いくら、塩辛、練りうになどは塩分がかなり高いので、食べるとしても週1回未満に控えましょう。