がん予防には「1日60分の歩行か身体活動」+「週に60分の運動」を
厚生労働省の平成29年「国民健康・栄養調査」によると、20歳以上で運動習慣のある人の割合は、男性35.9%、女性28.6%。年齢別にみると、その割合がもっとも低いのは、男性では30歳代(14.7%)、女性では20歳代(11.6%)となっていました。
このように大半の日本人が運動不足ですが、日常的によく体を動かす人ほど、がんになるリスクが低くなることが示されています。日常生活で無理なくできる運動を取り入れて、今よりも少しでも身体活動量を増やすことを目指しましょう。
身体活動によりがん発生リスク、循環器疾患リスク、総死亡リスクが下がる
国立がん研究センターの多目的コホート研究*に、日常的な身体活動量が高い人ほど、がんの発生リスクが低くなるという報告(「身体活動量とがん罹患との関連について」参照)があります。さらに、別の研究では、身体活動量の高い人では、脳卒中・冠動脈疾患の発症リスク(「日本人における身体活動と循環器疾患との関係」参照)や総死亡リスク(「身体活動量と死亡との関連について」参照)が低くなることも示されています。
また「科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」において、多目的コホート研究を含めた国内の複数の研究結果に基づき、大腸がんの発生リスクが減少するのは「ほぼ確実」、乳がんの発生リスクの減少は「可能性あり」と評価されています。
* コホート研究…数万人以上の特定集団を対象に、まず生活習慣などの調査を行い、その後何年も継続的な追跡調査を行うもの
運動とがんリスクとの関係
日常的な身体活動量を増やすことにより、なぜがんの発生リスクが下がるのか、そのメカニズムはまだ解明されていません。しかし、それにはインスリンというホルモンが関係しているのではないかと考えられています。
通常、食事などで血糖値が上がると、すい臓からインスリンが分泌され、血液中のブドウ糖を体内の各組織に取り込ませてエネルギー源とします。その結果、血糖値が下がるのですが、食べ過ぎや運動不足があると、血糖を下げるためにより多くのインスリンが使われるようになり、やがてインスリンが正常に働かない状態(インスリン抵抗性)になります。また、インスリンと同様の働きをするIGF(インスリン様増殖因子)という物質も増えてしまいます。
このインスリンとIGFには、がん細胞のアポトーシス(自然死)を抑制したりがん細胞の増殖を促進したりする働きがあるとされるので、これらの過剰分泌ががんリスクを上昇させると考えられます。
一方、運動を継続的に行うと筋肉の活動量が上がり、ブドウ糖が筋肉に取り込まれやすくなります。それによりインスリンやIGFの過剰な分泌を抑えることができ、がんの増殖抑制につながるのです。
さらに、運動により筋力がアップすると、基礎代謝も高まるため、肥満の予防・改善にも役立ちます。肥満は、さまざまながんのリスクを高めることで知られているため、そうした面でもがんの予防につながると考えられるでしょう。