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高温調理でできる「アクリルアミド」とがんリスクとの関連

高温調理でできる「アクリルアミド」とがんリスクとの関連

近年、特定の食品を高温で加熱すると、発がん性があるとされる化学物質「アクリルアミド」が生成されることがわかってきました。アクリルアミドの摂取とがんリスクとの間に確かな因果関係は、いまのところ認められていませんが、食生活を工夫することでアクリルアミドの摂取量をできるだけ抑えたほうがよいでしょう。

乳がん、子宮体がん・卵巣がん罹患との間に関連はなし

アクリルアミドは、紙の強度を高める紙力増強剤や接着剤、塗料などの原材料として利用されている化学物質で、国際がん研究機関(IARC)による発がん性分類において、「人に対しておそらく発がん性がある」とされています(「人に対して発がん性がある」に続く2番目の判定)。近年、アミノ酸の一種であるアスパラギンと糖類(ブドウ糖、果糖など)を含む食品を120℃以上の高温で加熱した際に、アクリルアミドが生成されることがわかっています。

アミノ酸や糖類は、多くの食品に含まれている一般的な化学物質であり、とくに、穀類、いも類、野菜類などに栄養成分として豊富に含まれています。アミノ酸や糖類に限らず、食品に含まれるさまざまな成分は、加熱によって分解したり、別の化学物質に変化したりします。そうした過程のなかで、アクリルアミドもつくられてしまうと考えられています。

日本人は欧米人に比べてアクリルアミド摂取量が少ないことが報告されていますが、国立がん研究センター 社会と健康研究センターでは、日本人を対象に、アクリルアミド摂取量と乳がんとの関連、子宮体がん・卵巣がん罹患との関連をコホート研究において検証しました(JPHC Study「アクリルアミド摂取量と乳がん罹患との関連について」「アクリルアミド摂取量と子宮体がん・卵巣がん罹患との関連について」)。

これらの研究ではいずれも、食事摂取頻度のアンケートによって推定したアクリルアミドの摂取量によって対象者を3つのグループに分けて、その後の乳がん、および子宮体がん・卵巣がんの罹患率を比較しました。アクリルアミド摂取量が「低」のグループを基準に、「中」「高」のグループの各がんのリスクを比較したところ、いずれもアクリルアミド摂取量との間に有意な関連は認められませんでした。

なお、子宮体がんについては、アクリルアミド摂取量が多いほど子宮体がん罹患リスクが下がるという関連がみられましたが、本研究のアクリルアミド総摂取量の約24%がコーヒーによるものでした。コーヒーは子宮体がんのリスクを下げる可能性がある(「コーヒーとがんリスク低下との関係」参照)ことから、コーヒー摂取量の影響を統計学的に除いてみたところ、アクリルアミド摂取量と子宮体がん罹患との間に有意な関連はみられなくなりました。

なお、これらの研究では、アクリルアミド摂取量を簡易的な食事摂取頻度のアンケートにより推定しているため、実際の摂取量を反映していない恐れがあります(JPHC Study「食事調査票から得られたアクリルアミド摂取量の正確さについて」)。また、代謝の影響が考慮できていないため、関連が見えにくくなっている可能性もあります。血液などの生体試料などを用いたさらなる研究が待たれます。

*コホート研究…数万人以上の特定集団を対象に、まず生活習慣などの調査を行い、その後何年も継続的な追跡調査を行うもの

津金 昌一郎

監修者 津金 昌一郎 先生 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究助成金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞、2014年高松宮妃癌研究基金学術賞などを受賞。一般向けの主な書著に『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学、山形大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。