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たばこを吸っていなければ、肺がんにはなりにくい?

たばこを吸っていなければ、肺がんにはなりにくい?

喫煙(たばこ)が肺がんの原因になることは知られているものの、受動喫煙の怖さについては正しく理解されていないのが現状です。受動喫煙がある人は、ない人に比べて肺がんのリスクが1.3倍になるという確かな証拠が揃っています。今一度、すべての人が受動喫煙による影響を認識し、受動喫煙を避けましょう。

受動喫煙により肺がんリスクが1.3倍に

多くの調査や研究により、喫煙が肺がんのリスクを上げることは「確実」であることは広く知られています。では、たばこを吸っていなければ安心かというと、そうとは言い切れません。なぜなら、たばこは喫煙者本人だけでなく、周囲の人にも「受動喫煙」という形で深刻な健康影響を与えてしまうからです。受動喫煙による健康影響で確実なものには、肺がんのほか、心筋梗塞や脳卒中、呼吸器への急性影響(臭気・鼻への刺激感)もあります。

そこで、2018年に健康増進法の一部が改正され、2019年7月からは病院や学校、行政機関で原則敷地内禁煙となりました。さらに、2020年4月からは同改正法が全面施行となり、受動喫煙防止対策が強化されました(詳細は、「4月から受動喫煙防止対策が強化。東京都は2人以上利用施設は原則屋内禁煙に」)。

実際、受動喫煙は健康にどの程度の影響を与えるのでしょうか。国立がん研究センターでは、日本人の非喫煙者を対象とした受動喫煙と肺がんとの関連について、複数の論文を統合・解析するメタアナリシスを行いました。その結果、受動喫煙のある人は、ない人に比べて肺がんのリスクが約1.3倍となり、国際的なメタアナリシスと同様の結果が示されました。これにより、日本人を対象とした受動喫煙による肺がんのリスク評価が、「ほぼ確実」から「確実」に変更されています。

受動喫煙の機会が増えるほど肺がんリスクはさらに上昇

受動喫煙の頻度が高いのは、喫煙者の夫を持つ既婚女性と考えられます。国立がん研究センターでは、40~69歳のたばこを吸わない女性約2万8000人を対象に、肺がんとの関連を調べるコホート研究*を行いました。

平均13年の追跡期間中に109人が肺がんと診断されました。夫が非喫煙者である女性(受動喫煙のないグループ)と比べて、夫が喫煙者である女性(受動喫煙のあるグループ)は約1.3倍肺がんになりやすいことが示されましたが、統計学的には有意ではありませんでした(前述の他の研究も加えたメタアナリシスでは統計学的有意な1.3倍のリスク上昇が確認)。

肺がんのなかでも非喫煙者の女性に多い「肺腺がん」にしぼって解析した結果では、受動喫煙のあるグループの肺腺がんリスクは、受動喫煙のないグループの約2倍になることが示されました(統計学的有意)。そして、職場など家庭以外の場所での受動喫煙が加わると、わずかではあるものの肺腺がんリスクがさらに高まることが示されました(国立がん研究センター社会と健康研究センター「JPHC Study 受動喫煙とたばこを吸わない女性の肺がんとの関連について」)。

このたび、受動喫煙防止対策が強化されたことで、こうした受動喫煙の機会が大幅に減少されることが期待されます。しかしながら、日本の法律や東京都の条例では、非喫煙者の受動喫煙を完全には防げませんので、自ら避ける努力が依然として必要です。受動喫煙の問題は、「⾃らの健康を損ねる⾃らの意思による喫煙」という⾏為とは異なり、「他⼈の健康を損ねる他者危害⾏為」であり、公害による健康被害と同等です。したがって、公害に対する規制と同様に、「望む」か「望まない」かにかかわらず、全ての国⺠が受動喫煙の被害から保護される必要があります。国際⽔準の屋内施設100%完全禁煙の法規制が求められます。

*コホート研究…数万人以上の特定集団を対象に、まず生活習慣などの調査を行い、その後何年も継続的な追跡調査を行うもの

津金 昌一郎

監修者 津金 昌一郎 先生 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究助成金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞、2014年高松宮妃癌研究基金学術賞などを受賞。一般向けの主な書著に『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学、山形大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。