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がんは必ず遺伝する?

がんは必ず遺伝する?

一部のがんは遺伝的要因が影響していることがわかっていますが、遺伝性のがんは全体でみるとごくわずかです。また、がんの発生には、長年の生活習慣やそれを作ってきた家庭環境などが大きく関係するため、近親者にがんの患者さんがいるからといって必ずしもがんになるわけではありません。がん家族歴がある人も、まずは生活習慣の改善に努めることが、がん予防につながります。

部位別にみたがん家族歴と罹患リスクとの関連

両親、あるいは兄弟姉妹などの近親者ががんになったことのある人は、「うちはがん家系で、自分も将来、がんになる可能性が高いのでは……」と、不安に思う人も少なくないでしょう。では実際に、がんは必ず遺伝すると言えるのでしょうか?

国立がん研究センターのコホート研究では、40~69歳の日本人男女約10万3000人を対象に、がん家族歴とさまざまな部位のがん罹患リスクとの関連を調べました(国立がん研究センター JPHC Study「がん家族歴と、その後のがん罹患リスクとの関連について」)。

対象者をがん家族歴の有無(実父、実母、兄弟、姉妹のうち少なくとも1人が、がんになったことがあるか、ないか)によって2つのグループに分け、がん罹患リスクを比較した結果、がん家族歴のあるグループでは、ないグループに比べて、がん全体において罹患リスクの上昇がみられました。また、部位別では、食道、胃、肝臓、膵臓、肺、子宮、膀胱のがん罹患リスクの上昇がみられました。さらに、これらの部位のがんにおいては、本人の喫煙の有無や飲酒習慣、体格に関わらず、がん罹患リスクが上昇する傾向がみられました。

なお、大腸がんでは家族歴とがん罹患に関連がみられませんでしたが、赤肉・加工肉の摂取をはじめとする生活習慣などを調整しきれていないことなどが考えられます。

*コホート研究…数万人以上の特定集団を対象に、まず生活習慣などの調査を行い、その後何年も継続的な追跡調査を行うもの

がん家族歴がある人は、生活習慣を見直すことが重要

乳がんや大腸がんなどの一部には、遺伝が原因であることが明らかな遺伝性がんというものがあります。これは、細胞内の遺伝子に生まれつき異常(変異という)があり、それが原因で罹患するものです。しかし、これまでの研究により、遺伝が直接的な原因といえるのは、がん全体の5%程度に過ぎないことがわかっています。

つまり、がん家族歴があることでがんリスクが上昇するのは、遺伝的要因によるものだけではなく、それ以上に、がんにかかりやすい生活環境を共有したことが大きく影響していると考えられます。ですから、がん家族歴がある人は、リスクとなる生活習慣を避けることが大切であり、加えて、推奨されているがん検診を受けて早期発見することがすすめられます。

津金 昌一郎

監修者 津金 昌一郎 先生 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究助成金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞、2014年高松宮妃癌研究基金学術賞などを受賞。一般向けの主な書著に『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学、山形大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。