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日本人のがんの状況は、他国のがんとどう違う?

日本人のがんの状況は、他国のがんとどう違う?

生まれつきの体質よりも環境・生活習慣の影響が大

がんの罹患率を国別・部位別にみてみると、アメリカや欧州では胃がんの罹患率が低いのに対し、日本や韓国、南米では胃がんの罹患率が高くなっています。これには、生活習慣の違い、なかでも特に食生活の違いが関係していると考えられます。塩分のとりすぎは胃がんのリスクを上げることがわかっていますが、日本、韓国、南米の食習慣では塩分摂取が多い傾向がみられるため、このことが影響していると推測できます。

生活環境ががんの種類にいかに関係するか、このことを示す興味深い研究があります。それは、移民を対象に行われた研究です。本研究では、ハワイ在住アメリカ人、ハワイ在住日系人、日本人、サンパウロ在住日系人、サンパウロ在住ブラジル人の5つのグループに分け、それぞれの胃がん、結腸がん、前立腺がん、乳がんの罹患率を比較しました。その結果、日系人のがん罹患率は、移住先の住民のがん罹患率に近づいていることがわかりました。移民は日本人と同じ遺伝子をもっていますが、現地の人と似たような生活習慣や食生活をしていたことにより、がんの罹患率も現地の人に近づいたと考えられます。

ただし、同じ日系人であっても、日本人とサンパウロ在住日系人のそれぞれのがん罹患率の傾向が比較的似ているのに対し、ハワイ在住日系人の罹患率は、よりハワイ在住アメリカ人に近づいていました。なぜ、このような違いが現れたのかというと、ハワイ在住日系人はアメリカナイズされた生活に溶け込んでいますが、サンパウロ在住日系人は日本人同士のコミュニティを作りながら暮らしていることが多いのが要因と考えられます。つまり、外国に移住してはいるものの、生活様式や食習慣が日本に近いため、がん罹患率も日本人に近づいたということです。

この結果からも、遺伝子や人種などによる生まれつきの体質よりも、環境や生活習慣のほうが影響が大きいことがわかります。日々の生活習慣を見直して、できるだけリスク要因をなくすことが、がん予防にとっていかに大切かがおわかりいただけたのではないでしょうか。

津金 昌一郎

監修者 津金 昌一郎 先生 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究助成金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞、2014年高松宮妃癌研究基金学術賞などを受賞。一般向けの主な書著に『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学、山形大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。