がん予防に王道なし。当たり前のことを当たり前に継続するのみ
今や日本人の2人に1人はがんにかかり、3人に1人はがんで亡くなる時代。WHO(世界保健機関)をはじめ、世界中の研究機関で、がん予防や、がんで死なないための方法が研究され、わが国でも厚生労働省の研究班や国立がん研究センターの研究班などによって、日本人にとって有効ながん予防法の研究が行われています。これらの研究成果は、信頼性のあるがん予防情報として、ぜひ活用していただきたいものです。
遺伝子に傷がついたり突然変異が起こって、がん細胞が発生する
ヒトの体は約60兆個もの細胞から成り、細胞分裂により新しい細胞が生まれる一方、古くなって役目を終えた細胞は消滅する、といったことを繰り返しています。これを細胞の代謝といいます。細胞の中に存在する遺伝子の働きで、細胞は自己複製をスムーズに行って細胞分裂が行われるのですが、何らかのきっかけで遺伝子に傷がついたり突然変異が起こったりすると(これを「がん遺伝子」という)、細胞の複製にもミスが生じます。多くは自然にあるいは免疫の力で消滅しますが、一部残った複製ミスの細胞が、正常な機能を失い増殖を続け、長年かけてがん化します。
遺伝子が傷ついたり突然変異を起こしたりする要因には、一部の化学物質や発がんウイルス、放射線、紫外線などの刺激(環境要因)があります。
一方、がんの発生を抑える働きをする遺伝子もあり、これを「がん抑制遺伝子」といいます。その機能が低下すると、がんが発生しやすくなります。遺伝する「家族性のがん」の原因の多くは、このがん抑制遺伝子に生まれつき異常があると考えられています。
がんが発生するまでのメカニズムは単純ではなく、複数のがん遺伝子やがん抑制遺伝子が複雑にかかわって、段階的にがんになると考えられています。
がんの発生は、生活習慣と深くかかわっている
「家族性のがん」は、がん全体のわずか5%程度で、多くのがんの発生には、環境要因を含めた生活習慣の影響が大きいことが、数々の研究でわかっています。
国立がん研究センターの研究班による多目的コホート研究(*)では、1990年と1993年に生活習慣などの基礎調査を行い、40~69歳までの男女約10万人について、喫煙、飲酒、肥満度などの生活習慣についての基礎調査を行い、がんの発生についての追跡調査をスタートしました。5年後、10年後の調査を終え、追跡調査は現在も継続しています。
これまでの結果、喫煙・飲酒・肥満度などにおいて、不健康な生活習慣のグループと、健康的な生活習慣グループとでは、10年間でがんになる確率に大きく差が出ることなどがわかり、生活習慣とがん発生の関係を明らかにしました。
(*)コホート研究とは、数万人以上の特定集団を対象に、まず生活習慣などの調査を行い、その後何年も継続的な追跡調査を行うもの。手間と期間がかかるが、正確なデータを得られる。多目的コホート研究は、がん、脳卒中、心筋梗塞などと生活習慣の関係を明らかにするために実施され、現在も継続中である。
がんの発生を確実に促進する要因は、「喫煙」「飲酒」「肥満」「ウイルス・細菌感染」
また、「生活習慣改善による予防法の開発に関する研究」(厚生労働省科学研究費補助金・第3次対がん総合戦略研究事業)によると、がんを確実に防ぐ方法はなく、「ほぼ確実」とされるものは、「運動が結腸がんのリスクを減らす」「授乳が乳がんのリスクを減らす」「野菜や果物の積極的な摂取が食道がんのリスクを減らす」ことなどごくわずかとしています。
一方、がんの発生を促進する確実なものとして、「喫煙」「飲酒」「肥満」「ウイルス・細菌感染」などとしています。
がん予防には、何か特定のものを食べてがんを防ぐことができるといったコツや近道はなく、がんの発生リスクになっている要因をできるだけ避け、多すぎず少なすぎずバランスの良い食生活、適度な運動、禁煙……といった好ましい生活習慣を身につけることが大切です。言い換えれば、当たり前のことを当たり前に継続することに尽きます。