誤嚥性肺炎の予防で大切な口腔ケア
食べものや飲みもの、唾液が誤って気管に入ると、口の中の細菌が肺に侵入して誤嚥性肺炎が起こる恐れがあります。誤嚥性肺炎は高齢者に多く、命にかかわることもあるので、口腔ケアで口の中を清潔に保つことが重要です。
気管に入った飲食物や唾液が原因で肺炎が起こる
肺炎は、がん、心臓病に次いで、日本人の死因で3番目に多くなっています(厚生労働省「平成24年人口動態統計の年間推計」)。1年間に約12万人が肺炎で亡くなっており、そのほとんどを65歳以上の高齢者が占めています。
肺炎は原因によっていくつかの種類に分けられますが、高齢者が注意したい肺炎の一つに「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」があります。
私たちが食事をするとき、口から入った飲食物や唾液は、のどから食道を通って胃へと送られます。この一連の流れを「嚥下(えんげ)」といい、食道の隣にある気管(空気の通り道)に飲食物や唾液が入り込まないように、気管の入口にある喉頭蓋(こうとうがい)という「ふた」が反射的に閉じるようになっています(図1)。

しかし、この「ふた」がうまく閉まらずに、飲食物や唾液が誤って気管に入ってしまうことがあります。これを「誤嚥(吸引)」と呼び、嚥下機能や、誤って気管に入った異物をせき込んで排除する機能が低下することで起こります。
そして、飲食物や唾液に含まれる細菌(主に、歯周病関連細菌)が肺まで到達して炎症が起きた状態を、「誤嚥性肺炎」といいます(図2)。誤嚥をしたからといって、必ずしも肺炎が起こるわけではありませんが、誤嚥によって肺に大量の細菌が入り込んだ場合や、免疫力が低下している人などでは、肺炎を起こす恐れがあります。また、胃の内容物が嘔吐(おうと)により気道に入った時にも「誤嚥性肺炎」が起こることもあります。

肺炎が起こると、発熱や倦怠感(けんたいかん)などの全身症状、せき、たん、呼吸困難などの呼吸器症状がみられます。しかし、高齢者では発熱やせきなどの症状があらわれないことがあり、気づいたときには症状が進行していることも珍しくありません。
高齢者、脳血管障害・認知症・パーキンソン病などの神経変性疾患・胃食道逆流症といった病気のある人、寝たきりの人などは、誤嚥性肺炎を起こしやすいので注意が必要です。
口の中を清潔に保つこと(口腔ケア)が大切
誤嚥には、食事中に飲食物をうまく飲み込めずにむせるなどして本人や周囲の人が誤嚥に気づく「顕性誤嚥(けんせいごえん)」と、知らないうちに唾液と 一緒に口の中の細菌を飲み込んでしまう「不顕性誤嚥」があります。不顕性誤嚥は食事のときだけでなく、睡眠中などに起こることもあり、食事のときは問題なく飲み込めている人でも、眠っているときに誤嚥を繰り返している場合があります。
高齢者の誤嚥性肺炎の多くは、不顕性誤嚥によって引き起こされると考えられています。入れ歯の洗浄が不十分だったり、う蝕(虫歯)や歯周病があったりすると、口の中の細菌が増殖して、誤嚥をしたときに肺炎が起こりやすくなります。そのため、誤嚥性肺炎を防ぐためには、毎日の口腔ケアで口の中を清潔に保つことが重要になります。
口腔ケアは、口腔内の歯や粘膜、舌などの汚れを取り除く器質的な口腔ケアと、口腔機能の維持・回復を目的とした機能的口腔ケアから成り立ちます。この2つが、うまく組み合わされることで、口腔ケアの効果がさらに高まります。
最近、口腔清掃状態を改善し、歯周病が改善されることで、誤嚥性肺炎予防の可能性を示唆する研究結果が報告されてきています。すなわち、適切な口腔ケアにより、口腔や咽頭の細菌数が減少し、食欲も出て、栄養状態が改善し、さらには、発熱が下がったり、その頻度が少なくなったりなど免疫力の向上にもつながるからです。
歯ブラシでのブラッシングに加え、デンタルフロスや歯間ブラシも用いて、歯垢(プラーク)をきちんと取り除きましょう(参考:2010年12月「きちんと歯磨き、できていますか?」、2012年4月「デンタルフロス&歯間ブラシの適切な使い方をマスターしよう」)。また、う蝕(虫歯)や歯周病がある人は、きちんと治療をすることも大切です。
介護が必要な人に対する口腔ケアの方法は、どの程度介護が必要なのかによって異なるので、専門家の指導を受けてください。
そのほか、食事をするときはよい姿勢でよく噛んでゆっくりと食べる、食後2時間は座位を保つなど、誤嚥を防ぐ工夫も心がけましょう。