歯の治療が怖くて仕方がない方へ
過去に受けた治療が痛くてたまらなかった、口の中に器械や器具を入れられるのがいやなどの理由で、歯の治療が怖いという方は少なくありません。なかには、う蝕(虫歯)がひどくなるまで受診を躊躇(ちゅうちょ)する人もいるようです。恐怖心を軽減できる方法があるので、一度歯科医院に問い合わせてみましょう。
薬で緊張を和らげる「精神鎮静法」
子どもが歯の治療を怖がるのはよくあることですが、大人でも苦手な人は意外と多いもの。治療時の痛みや、歯を削る器械の「キーン」という音に恐怖心を抱いたり、口の中に器械や器具などが入ると吐き気をもよおす「嘔吐(おうと)反射」が起こるために、歯の治療をためらう人がいます。
現在では、う蝕(虫歯)があっても、できるだけ歯を削らない・抜かない治療が行われるようになっています。また、歯肉(歯ぐき)に麻酔薬を注射する際の痛みを和らげるために、あらかじめ注射針を刺す部位に麻酔薬を塗布する「表面麻酔」を行うケースもあります。昔に比べて治療に伴う痛みは軽くなっていますが、それでも歯科治療に対して恐怖心がある人は、薬で精神的な緊張を和らげる「精神鎮静法」を検討しましょう。
精神鎮静法には、「笑気吸入鎮静法」と「静脈内鎮静法」があります。いずれも全身麻酔とは異なり、意識が完全になくなったり、痛みをまったく感じなくなるわけではありませんが、気分をリラックスさせる効果があります。
恐怖心から精神的な緊張が高まると、治療中に意識障害や血圧の低下、過換気発作などが起こる恐れもあるため、がまんは禁物です。
笑気ガスを吸入して心身をリラックスさせる「笑気吸入鎮静法」
笑気吸入鎮静法では、低濃度の笑気ガス(医療用のガス)と酸素を、専用のマスクを用いて鼻から吸入します。吸入を開始して少し経つと、手足がしびれ、体がぽかぽかと温かくなります。お酒に軽く酔ったときのような心地よさがあり、リラックスして恐怖心が和らぎます。しかし、笑気吸入中に意識がなくなることはありません。時間の経過が気にならなくなり、治療に時間がかかったとしても、短時間で終わったように感じます。
笑気によって痛みに対して鈍感(鎮痛効果)になりますが、痛みが完全になくなるわけではないので、必要に応じて局所麻酔を併用します。
笑気吸入鎮静法の利点は、調節性があり、呼吸、循環機能の抑制が少なく、安全性が高いことです(下記)。吸入をやめると、笑気ガスは短時間で体内から排出されます。体がふらついたりせず、正常な状態に戻っていることを確認できれば、治療後はすぐに帰宅することができますし、車や自転車の運転も可能です。
笑気吸入鎮静法の利点と欠点
【利点】
- 調節性に優れる。
- 回復が速い。
- 術者に技術があまり要求されない。
- 緊急時には酸素投与ですばやく覚醒できる。
- 快適な覚醒が得られる。
- 患者の協力が得られる。
【欠点】
- 室内汚染
- 鼻マスクによる会話や治療の抑制。
- 導入に時間がかかる。
- 気管支喘息患者には使用できない。
- 鎮痛効果が不確実な場合がある。
より高い鎮静効果が得られる「静脈内鎮静法」
一方、静脈内鎮静法は、抗不安薬や麻酔薬を点滴で静脈内に投与するもので、笑気吸入鎮静法より高い鎮静効果が得られます。治療中は、モニターで心拍数や血圧などの全身状態を確認しながら、投与する薬の量を調整します。意識はあるものの、うとうとと眠っているような状態になります。笑気吸入鎮静法と同様、治療内容によっては局所麻酔を行うことがあります。
静脈内鎮静法を行っている間に嘔吐による窒息や誤嚥(ごえん)が起きないように、治療前は胃が空になるように絶飲食が必要です。通常の食事は治療の8時間前まで、飲料の摂取は治療の2時間前までに摂取することがすすめられています。
治療後は体がふらついたり、眠気を感じたりするので、1~2時間程度別室で安静にして回復を待ちます。帰宅する際は、できるだけ誰かに付き添ってもらいましょう。
治療当日は車や自転車などの運転、飲酒、激しい運動などは控え、帰宅後も安静にします。また、重要な判断を必要とする仕事も避けたほうがよいでしょう。
精神鎮静法は、どこの歯科医院でも受けられるわけではありません。まずはかかりつけの歯科医師に相談し、必要に応じて適切な医療機関を紹介してもらいましょう。
なお、嘔吐反射がひどい場合は、嘔吐反射外来やリラックス歯科治療外来のある病院もあります。