知っていますか? 訪問歯科診療
介護が必要な高齢者(要介護高齢者)などでは、歯科医院への通院が難しい場合があります。そんな患者さんを対象に、歯科医師や歯科衛生士が自宅や施設に出向く「訪問歯科診療」が行われています。たとえ寝たきりでも、口腔ケアを行って口から食事をとれるようになることは、生きることやQOL(生活の質)の向上に大きな役割を果たします。
外来受診しにくい高齢者にこそ、歯の治療や口腔ケアは重要な問題
わが国では超高齢化社会に伴い、2000年より「介護保険制度」がスタートし、2006年4月に介護保険制度が見直されました。「自立高齢者が要介護状態になることをできる限り防ぐこと」と「要介護高齢者がそれ以上に状態を悪化させないこと」を念頭に、「介護予防」を重視する制度に改正されたのです。そして、その双方に効果がある「口腔機能の向上」も、介護予防の1手段として導入されました。
訪問歯科診療とは、増加し続ける通院が困難な要介護高齢者などのために、歯科医師や歯科衛生士が自宅や社会福祉施設を訪問して行う歯科診療のことです。
高齢者は、う蝕(むし歯)の発生リスクが高く、口腔内に問題を抱えていることが多くなりますが、通院が困難なために歯科診療を受けられない人がたくさんいます。しかし、高齢者の口腔トラブルは、放置すると歯を失うこととなり、噛む力(咀嚼)、飲み込む(嚥下)、唾液を分泌する(消化)、言葉を発する(発音)、表情を表す(感情表現)など口腔機能の低下を招きます。それらは栄養不足や食べる楽しみの欠如、誤嚥性肺炎などさまざまな問題につながり、ひいては全身の健康や生命予後にもかかわることが、最近の研究で明らかとなっています。外来受診が難しい高齢者にこそ、歯科診療や口腔ケアが重要なのです。
6年ごとに行われている歯科疾患実態調査の最新となる、2011年の報告書(厚生労働省「平成23年歯科疾患実態調査」)によると、「8020達成者」とよばれる80歳で20本以上の歯を有する人の割合は、前回の2005年(平成17年)の調査結果24.1%から増加しているものの、4割に満たない38.3%に過ぎません。一方、同調査によると、歯周病の有病率は、やや減少しているものの、歯肉炎も含めると「国民の8割が歯周病」といわれる状態。特に、高齢者は半数以上が歯周ポケットを有し、歯周病関連の自覚症状を訴える人の割合も多く、歯周病は大変高い有病状況を示しています。したがって、多くの高齢者に、歯周病治療や義歯(入れ歯)など咀嚼機能の回復が必要とされています。
歯科外来とほぼ同様の診療が受けられ、費用は医療保険や介護保険が適用される
訪問歯科診療の診療内容は、う蝕(むし歯)や歯周病などの治療、歯石・歯垢除去やブラッシング指導などの口腔ケア、義歯(入れ歯)の相談や作製・調整など。歯科医師や歯科衛生士が持ち運び可能な機材を持って訪問してくれるため、歯科への外来受診とほぼ同様のことが行えます。寝たきりの場合でも治療可能です。
厚生労働省の「平成23年(2011)患者調査の概況」によると、年齢階級別歯科受療率は、70~74歳をピークとして、それ以降の後期高齢者では急速に低下しています。一方、在宅医療に関しては、調査日に在宅医療を受けた推計外来患者数110.7千人に対して、在宅医療の種類別では、「往診」35.7千人(内歯科医療16.5千人)、「訪問診療」67.2千人(内歯科医療14.4千人)、「医師・ 歯科医師以外の訪問」7.8千人(内歯科関連医療2.1千人)となっています。
費用は、医療保険や介護保険が適用され、治療費のほかに訪問診療料と、要支援・要介護者の場合は指導料がかかります。自宅で受けるか施設で受けるかなど、状況によって金額が変わってきます。また、別途交通費が必要となることもあるので、予約時によく確認しておきましょう。
訪問歯科診療を受けられる歯科医院を探すには
訪問歯科診療を受けるには、まず、本人や家族、介護者が、歯科医院に日時(基本的に診療時間内)を予約します。訪問歯科診療を行っている歯科医院はかぎられますので、本人や家族のかかりつけの歯科医院がある場合は、訪問可能かどうかの確認が必要です。
訪問歯科診療を行っている歯科医院を探したいときは、自宅や社会福祉施設のある自治体の保健所、健康福祉課などの担当課や、歯科医師会に問い合わせてみましょう。平成20年(2008年)4月からスタートした「後期高齢者医療制度」でも、在宅医療の充実は重点課題のひとつとなっており、歯科医師会など関係機関でも訪問歯科診療の提供体制の充実に取り組まれています。同じ組織ですが、一般社団法人日本訪問歯科医学会や一般社団法人日本訪問歯科協会、医療情報ネットも参考にしてください。